■付加価値 (No.075)

若い人たちと一緒に仕事をしていると,彼らが会社で働くことにどんな意義を感じながら仕事をしているのだろうかと,ふと考えさせられることがある。毎日,熱心に残業を厭わず働いている。特に,期限が限られた仕事になると,徹夜に及ぶこともあるようである。昨今は会社では規制が厳しく,徹夜はできないようになっているが,その代わりパソコン一つあれば,仕事ができるようになっているため,自宅で徹夜することが可能になっている。

我々の時代は,少なくとも若いときにはパソコンが未だ無く,書類を持ち帰ってと云うことはあったにせよ,パソコンのように何でも殆どの資料がネットワークを通じて見られる状態ではなかった。ハード系の仕事だったこともあり,翌朝までに問題を解決しなければならず実験室で徹夜をするはめになったことは時々あった。そんな今では懐かしい時代を振り返りつつ,若い世代は今,何を考えているのだろうかと考えることがある。

QCD(品質,コスト,納期)は一般的に何かをするときに,呪文のように問いかけられ,やれ品質改善,スケジュール遅れがどれだけあるから挽回策をどのようにするか,など,具体的な目の前の仕事や問題に,上司からもチェックが入り,各々が必死に取り組んでいる。毎日が,目の前の仕事を如何に早く処理していくかで精一杯である。若い時は,「残業して,ああ一日疲れた」で終わり,この繰り返しではないだろうか。

ところで,日々の具体的な仕事ではなく,会社の経営的なことに関しては,通常は総合の朝会など全員を集めた場で,トップから事業計画対比の経営数値や或いは工場としての利益がどういった状況なのかを月1回程度は報告されている場合が多い。しかし,若い人にとって会社トップから経営数値を云われてもなかなかピンこないものである。利益が出ようが赤字になろうが,きっちり給料を貰い,残業代を稼ぐことができるかの方に関心がある。赤字になると,残業カットなど自分たちの生活にも響くので,そこのところは気になるが,それ以外はどうでもよい,に近い心境である。それよりも,今の仕事で遅れがある分を如何に取り戻すか,或いは抱えている品質問題が大きくならずに済むかどうか,に関心が向く。

会社そのものとしては,社会に貢献した見返りとして利益を上げ,税金を納め社会に役立つ仕事をしているので,利益が上がらない状況では役目を果たしたことにならない。もちろん経営者は利益を上げることに組織を挙げて懸命で,従業員に協力を呼びかけ,目指す方向を共有してもらうためにも,そうした全員が集まる場で若い人にも説明を繰り返し行っている。

会社とは付加価値をつけて,製品やサービスを社会に提供しているのだが,付加価値から掛かった人件費を引いたものが利益である。つまり,付加価値をどれだけ多くつけて,製品やサービスを提供できるかどうかを問われているのである。ところが,昨今の偽装に代表されるように,自らの力で付加価値も付けず,付いたように見せかけて利益を上げる会社がある。こんなことは許されるものではない。付加価値の大きさは,顧客が決める。顧客としては,製品やサービスが付けられた価格相当の価値を認めるから購入するのであって,いくら掛かったとか,原価がどうこうと云うことは一切関係ない。

wpe1.jpg (20452 バイト)

上の図は,一般的な製造会社の価格(原価)構成を示したものである。製造会社の出荷価格は顧客が買ってくれる価格から流通コストを引いたもので,この出荷価格から原価を引いたものが付加価値であり,会社はこれを大きくしようと努力している。これを原価的にみると,一般的に固定費と云われている人件費(加工費,スタッフ費など)と設備償却費があり,付加価値からこれら掛かった経費を引いた残りが利益になる。赤字の会社は,この付加価値が少なく,掛かった経費の方が多くなってしまうケースである。

上の図の中にも示すように,会社として付加価値を上げるには,@高い価値を認めてもらって顧客に買ってもらうこと,A購入する原価(部品,材料代など)を引き下げること,Bスタッフの効率を上げ費用を少なくすること,などであり,どこの会社も真剣に取り組んでいる内容である。このことは,会社経営にとっては基本中の基本であるが,若い人には,原価低減活動として,高い日本製部品でなく,中国製の採用ができないかとか,原価を何%下げる検討をしろとか,具体的な目標を決められて下りてきたり,間接費用の削減として,残業時間制限などの指示が下りてきたりする。こうした地道な企業活動が積み重なることで,会社としては付加価値を上げ,利益を上げているのである。

付加価値を如何に上げるか,と云う問題は,図からも判るように,掛ける費用よりも大きい価値を生み出すことが,付加価値の源泉にある。このことが基本である。つまり,技術者がいろいろ新しい技術を考え製品に搭載しようとするが,その技術の価値を,先ずはお客様が認めて買ってくれることがないと,どんなすばらしい技術を誇っても付加価値としては生まれないことになる。また,掛けた費用が大きいのにお客様が価値として少なくしか認めてくれないと,これも付加価値を効果的に生み出したとは云えない。付加価値はあっても,状況によっては,赤字の製品・サービスになることもある。

つまり,掛けた費用よりも大きい付加価値を生み出すことが重要なのである。

(続く)

付加価値を上げることを考えたことがありますか?

あなたは如何にして付加価値をつけていますか?

 

[Reported by H.Nishimura 2008.07.14]

Copyright (C)2008  Hitoshi Nishimura