■「日本経営品質賞」とは 1 (No.073)
先週,日本経営品質賞のアセッサー資格の更新について説明したが,そもそも「日本経営品質賞」なるものが,どんなものかを知らない旁々に,資格の更新のことをいろいろ述べてもピンと来ないのが当然である。そこで,今回は順序が逆になったが,「日本経営品質賞」なるものが,どんなものかを全く知らないことを前提に,簡潔明瞭に説明をしてみたい。
ただ,どれだけ上手く説明できるかは判らないが,本質的な内容までを具体的にきっちり学ぼうとするならば,経営品質協議会の教育訓練コースをきっちり学ぶことが必要である。ここでは敢えて,そこまではしようとは思わないが,どんなものかは知りたい人を対象に説明してみる。
先週も,冒頭に簡単な説明をしたが,再度同じものを繰り返しておく。
この「日本経営品質賞」JQA(Japan Quality Award)活動は1996年から日本で始められているが,この基はアメリカ国家品質賞となっている「マルコム・ボルドリッジ賞」(以下MB賞)にある。これは1980年代レーガン時代に,特に日本などに痛めつけられた産業回復を目指した研究成果で,経営革新の要素をマネジメントモデルとしてシステム化されたものである。特に,欧米は日本とは違って,膨大なビジネスモデルを丹念にデータ分析し,システム化することに長けており,産業回復を目指した国家的な活動で,1988年に制定されている。1990年代の米国産業が復活したのは,この活動によるところが大で,その成果を各国が認めることになり,世界のデファクト・スタンダードになり,60カ国以上に広がっている。
日本はそれから遅れること数年,1993年に顧客満足経営のあり方について,先進的に取り組む大手企業幹部で研究会が発足,MB賞を1年掛けて研究,これが発展,産業界に広く呼びかけ運動が始まり,約100社の幹部が2年間にわたって顧客価値の経営を実践する評価基準などを研究,1996年から「日本経営品質賞」が創設されている。
繰り返し,挙げたのはアセッサー資格を取った人でも,活動の具体的なやり方は判っているが,その背景にあった考え方,MB賞からきたことくらいは知っていても,なぜMB賞がそれほど有効で,それを日本が採り入れたかはよく判っていない人が結構おられる。
そもそもMB賞は,産業の回復を狙って日本のシステムをMIT教授30数名が分析したものから,経営革新の要素をマネジメントモデルとして取り出し,システム化したものである。MB賞とは当時の商務長官(マルコム・ボールドリッジ氏)の名前を冠している。MB賞は,7つのプロセスからなり,そのプロセスを組織としてきっちりできていることを採点評価して,優秀な企業に国家品質賞の栄誉を与えている。従って,日本でも著名なアメリカの大企業の殆どがこの国家品質賞を受賞し,経営成果も立派に上げているのである。そうしたことが,世界各国の注目の的になり,全世界へと広がったのである。
つまり,80年代の成長著しい日本のやっていたことを日本ではシステム化できず,暗黙知の領域で継承されていたものを,優秀な頭脳の持ち主が上手くシステム化して,企業革新をし経営に貢献するやり方としたもので,それほど驚くべきものではない。元々経営に奇をてらったやり方で長期安定成長が続くものではない。一方,日本は80年代の成長とは打って変わって,90年代は停滞してしまっている。そこで,90年代の後半から,日本もこれでは大変なことになるとMB賞を学ぶ動きが出てきたのである。ただ,現在でも日本の中に,このMB賞の考え方が,十分浸透しているとは云えない状況にある。いわば,経営とはシステム化するだけで上手く行くようなものではないことを経営者自らが悟っているからでもあるような気がする。
それでは「日本経営品質賞」とは,日本ではどんな企業が受賞しているのか?それは,具体的には経営品質協議会のホームページを見ていただくことにするが,受賞部門が大企業部門,中小企業部門と分かれており,大企業部門は一部上場の大企業が受賞しているケースが多い。中小企業部門になると,そうでもない。また,大企業でも会社全体と云うより,分社レベルの一つの事業部門が受賞すると云う形になっている。2006度からは,企業だけでなく公共機関である滝沢村役場が受賞している。対象となるプロセスが,組織全体で統率され,きっちりとシステムが回っていると同時に,それによって経営成果が見られないと採点が低くなり,受賞対象の俎上にも上らないことになる。
この点を踏まえた上で,「日本経営品質賞」の内容に入る。
通常の企業活動とどの点が違うかを示すのが一番判りやすいと思い,イメージ図を下図に示した。通常一般の企業活動は,会社のミッション・ビジョン・方針のもとに事業活動が展開されており,その活動には,事業戦略や中・長期計画,そして年度ごとの事業計画があり,これがPDCAのサイクルでもって回っている。それらに対して,日本経営品質賞(JQA)の活動は,組織プロフィールを基に,重要成功要因を導き出し,活動を展開し,それらを8つのカテゴリー(システム化された経営活動に必須要件である切り口)でアセスメントするものである。
つまり,自分たちの事業を「組織プロフィール」の形で分析し,それらから「目指す姿」に到達するための要因(それを重要成功要因と云う)を導き出す。この「重要成功要因」に対する具体的な活動を,決められた8つのカテゴリーを理解した上で,組織的な展開を図る。それらに対して,セルフアセスメントという形で,組織の成熟度がどのレベルになっているか,合目的,展開,革新の観点でアセスメントを行う(一部活動成果は目標達成度でもみる)。
優秀な企業はこうした「自らの気づき」でもって,卓越した経営を目指すべきである,と云うのが「日本経営品質賞」の目指す姿である。この考え方を十分理解しておかなければ,「日本経営品質賞」並びに「マルコム・ボールドリッジ賞」の本質であるところを見失う恐れがある。次回,以降に述べる8つのカテゴリーなど具体的な内容も重要なのであるが,すぐさまどのようにやればよいかとHow-toに走りがちな傾向は戒めなければならない。How-toだけでは,立派な経営はできないことは明らかであり,How-toができれば卓越した企業になれるのならば,もっと多くの卓越した企業が出てきてもおかしくない。そのことは,当にこの考え方の部分が如何に重要で,そのことを全員に徹底し,組織の成熟度を上げることが如何に難しいことであるかを物語っている。
(続く)
日本経営品質賞に興味を持ちましたか?
経営に関する仕事に携わる人は少なくともこの考え方を十分マスターしておくことが必要です
経営品質協議会 ホームページ URL:http://www.jqac.com/index.htm
[Reported by H.Nishimura 2008.06.30]
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