■会社間の取引 2 (No.067)

引き続き,技術者が関連する個別契約について述べてみよう

  購入仕様書または納入仕様書(個別契約)

会社間で部品を購入したり,委託先に開発の一部を依頼したりするなど,取引契約の中で仕事を進めることはよくあることである。基本取引契約が会社間の基本的な取引に関する契約に対して,個別の契約はどのようにされているのか。つまり,我々が購入先にこんな技術仕様に基づいた部品,または開発内容をやって欲しいと契約する場合である。契約と云うと大げさに聞こえるかも知れないが,会社間の取引は常に契約関係で成り立っている。

このような個別契約に相当する文書がある。これが,購入側から発行される購入仕様書である。これは,購入側が,こんな仕様のものを購入したいと示した技術仕様書(Specification)である。納入側が,示された購入仕様書に基づいてそれに合致したものを納入することになる。もし,納入側が示された仕様書を満足できないならば,訂正を求めなければならない。つまり,購入仕様書が個別契約書に相当するので,それを満足できないものを納入する場合は,個別契約違反になるからである。この購入仕様書には,技術的な内容が示されているので,営業などが購入先との仲介をするものの,中身の確認は技術責任者がきっちりと確認しておかなければならない。つまり,個別契約(技術契約)の責任は技術部門である。契約は一切知らないとは云えない立場にある。

同じように,納入側から納入仕様書が発行される場合がある。これは納入側が,納入する品物の技術仕様はこれです,と示すものである。この仕様は購入側の技術部門へわたり,その内容で十分か否かを吟味され,それで良ければ確認された印鑑を押されて返却される。或いは一部朱書き訂正されて返却されるケースもある。これで個別契約が成立し,相互のこの納入仕様書に基づいた品物がやりとりされることになる。

上述した購入仕様書と納入仕様書は,内容的には同じもので,購入する側が要求する仕様として購入仕様書を示すのに対し,納入側が供給する仕様として納入仕様書を示す。両方があるのではなく,どちらか一方である。この納入仕様書を納入側から発行する制度は日本的なもので,日系企業では当たり前のように使われているが,グローバルスタンダードではない。購入先が要求する購入仕様書の方がグローバルスタンダードであることを知っておいて欲しい。

つまり,海外の会社と取引するときには,この納入仕様書を発行しても,購入先から返ってこないケースが多い。グローバルには,購入仕様書がスタンダードであり,購入側が発行する仕様書が個別契約に相当することを知っておかねばならない。欧米企業では,小さな部品でも細かく技術仕様を記載されたものが発行される場合がある。納入側としては,これを一字一句よく吟味しておかなければ,問題が発生したときに,納入仕様書を提出しているからそれに従っていると説明しても通用しないことを知っておいて欲しい。このようなことにならないためには,購入先から購入仕様書を発行されたら,内容を十分チェックして,違うものを納入する場合には,納入前に,購入仕様書を訂正してもらっておくことである。海外でも日系メーカは納入仕様書が通じ,この納入仕様書を確認されたものを返却してもらっておくことである。これが個別契約である。

納入側に立った説明をしたが,購入側はこの逆の立場となる。

もう一つ,税法上の話をしておくと,この購入仕様書,納入仕様書はいずれも個別契約書に相当することから,契約書には印紙が必要となる。しかし,慣例上として,仕様の確認を相互で行った書類として,印紙は不要であることを国税庁に認めてもらっている。したがって,この仕様書に承認印の欄を設け,承認印を押印していると,契約書と見なされる可能性がある。つまり,この仕様書の表紙は,確認欄として確認印を押してもらって返却してもらうシステムになっている。

一昔は,「承認図」「承認仕様書」と云い,承認印を貰っていた時代があった(昭和50年代まで)。しかし,上記のような理由から,承認と云う文字は消えている。消えた理由は上述した通りである。もちろん,重要な個別契約書であるとして,承認印をもらって,印紙を貼付されたものを交換することも有効ではある。しかし,企業で敢えてそうするところはない。

個別契約について理解できましたか?

 

[Reported by H.Nishimura 2008.05.19]


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