■会社間の取引 1 (No.066)
技術者の仕事は,単に技術開発や工場技術など純然たる技術だけが仕事ではない。他の会社から部品を購入したり,委託先として技術開発の一部を依頼することもある。そうしたとき,会社間での取引が行われる。技術者はこうしたことが行われることは知っていても,具体的な取引がどのように行われているか,意外と知らないことが多い。そうした契約などは自分たちの仕事ではなく,営業や法務或いは企画などの仕事であると,割り切っている人が多い。今回は,技術者も大いに取引に関係することを述べてみよう。
取引契約
会社間で取引をする場合,必ず取引契約が結ばれている。電子商取引のB to B(Business to Business)と云われる形態で取引が行われる。まず,取引するに当たっては,両社間で取引基本契約書が結ばれる。これは,会社間における取引の基本的な部分の契約であり,技術者がこうした契約に関与することは少ない。通常,営業又は購買が中心となり,契約の中身の部分は法務など,契約に通じた部署が内容を吟味する。
内容的には,それほど特殊なものではなく,一般的に次のような内容になっている。
- 個別契約の成立条件,変更条件
- 仕様,単価について
- 納入,受入検査
- 引渡し,所有権の移転
- 品質保証,保証期間
- 製造物責任
- 代金の支払方法
- 製造の中止
- 知的財産権の所有,紛争
- 秘密保持
- 契約解除
- 損害賠償請求
- 輸出管理法令などの順守
- 有効期間
- 契約終了後の措置
以上のような内容で,技術者が直接関わりを持つことは先ずない。実際,技術者として取引に携わっていても,こうした契約内容を十分知らずにいる人も多いのが実態である。
契約は両社間の取り決めだから,対等の関係で成り立っていると思いがちであるが,実際には,契約内容そのものが,両社間の力関係を反映していて,必ずしも平等な内容になっていない場合もある。こうしたことは,両社間でトラブル,例えば損害賠償の請求などが起こったときに初めて発覚することもある。少なくとも,第一線の営業マンや購買マンはこれらの内容を十分把握して仕事に当たらねばならない。
私の経験から云うと,PL法(製造物責任法)が施行された1995年に,こうした基本取引契約に関することをいろいろ学んだことがある。その当時でも,こうした契約はかなり昔に結ばれたままで見直しが殆どされないままになっていた。したがって,自動車メーカなどとの取引基本契約を見ると,部品メーカに対して自動車メーカがかなり有利な条件で基本取引契約が結ばれていることを知ったことがある。その当時の力関係(今もそれほど変わらないかも知れないが)が,如実に反映されたものだった。
技術者はそれほど,この基本取引契約に過敏になることはないが,損害賠償の範囲など,思わぬ範囲まで契約が結ばれているケースがあるので,機会があれば詳しい人に聞いておくことも必要なことである。その他,技術者の関連することと云えば,知的財産権や秘密保持(NDA)などで,場合によっては,特に新しい技術など競合など他に知られると困るものは秘密保持契約(NDA)として別途結ぶケースもある。
それよりも,技術者にとって重要な契約は個別契約である。つまり,基本取引契約は会社間の取引の大枠を決めたものであって,個々の取引はこれでは不十分である。つまり,個別契約が別途結ばれて取引されているのである。この個別契約には,技術者も大いに関与する部分があるので,次にその解説をする。
(続く)
会社間の取引には基本取引契約書が結ばれています
技術者が直接,基本取引契約書に触れることは少ないと思われるが,あることは知っておこう。
[Reported by H.Nishimura 2008.05.12]
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