■ルールとその運用 (No.064)
新しい施設でのやりとりから感じたことを述べてみよう。
先日,母が新しくできた介護老人施設に入所することができた。4月になって初めてスタートした施設で全てが清清しく新しい。これまでも,別の施設でショートステイでお世話になっていたが,今回の施設へ申し込み,結構な競争倍率があったが,同じ町内ということもあって,入所することができたのである。新しいにおいがプンプンする中で,入所の契約手続きを済ませた。こうした介護施設なので,一気に全員が入所とは行かず,順次入所されていく仕組みで,母は入所の早い方であった。
入所して2週間後,その施設で一切合財生活することになるので,必要なもので不足しているものもあろうかと,再び訪問した。母はテレビは目も疲れるからラジオで十分で必要ないとは言っていたが,あれば見るだろうと,新しい液晶TVを備え付けることにした。入所の契約には,テレビなど生活に必要なものは持ち込んでも良いことになっていた。但し,電気代など,月極めで支払うことにはなっていた。持ち込んだ日が日曜日だったので,部屋を担当されている方に,テレビを備え付けた旨を伝えた。その担当者もこうした場合,どのようにすれば良いか,すぐに判らないので,事務所に尋ねますとの返事だった。しばらく待っても返事が返ってこないので,再び尋ねると,事務所も日曜の当直員だけで,判らないので担当者をつかまえるので待って欲しい,とのことだった。
結局,担当者もつかまらず,こちらも帰る時間もあったので,必要な手続きの書類があれば郵送して欲しい旨を伝えて帰宅した。翌日,確認の電話をすると,手続きの資料は必要ではなく,事前に届出が欲しいとの事で一件落着した。
こうした施設の利用に当たっては,ルールが定められており,契約書にもその説明が書かれている。しかし,契約書に手続きのやり方までは書かれていない。それは,施設の方のルールがあって,こうした電気製品の持込の場合にはしかるべき手続きを取るようにと,マニュアルが備えられているはずである。どうも,新しい施設なので,そこまでのマニュアルが揃っていなかったようである。或いはマニュアルがあったのかも知れないが,それが周知徹底できていなかったのかも知れない。とにかく,施設としては不手際だったのである。必需品としてテレビのような誰もが持ち込みそうなものでさえ,このような状態なので,多分特殊なものだったら,もっと混乱を来たしたのではなかろうか。
組織にはいろいろなルールが決められている。しかし,実際にその場に居合わす人,或いは顧客からの問い合わせを受ける人が,ルールの運用方法を十分熟知していなければ,今回のように正しく運用されないことが起こる。今回はたまたま些細なことであったが,もっと重大なことであれば,即刻対応しなければならないこともある。しかし,新しい施設では,教育はされたとは思うが,なかなか実際ことが起こってみないと判らないものである。その場では理解したつもりでも,理解できていないことが多い。これらのことは,いろいろなことの積み重ねで,経験しながら学んでいくことになるだろう。
発生したことに対するアクション
その施設で何らかの処置は執られたと思われるが,具体的にはその後どのようなことが行われたかは知る由もない。ここで,自分がその施設の立場だったらどうするだろうか,考えてみたい。まず,月曜日の朝のミーティングである。土日に起こった内容の確認である。特に,緊急を要する要件が発生しなかったか。次に,懸案事項や,問題になった事項である。このように,メンバー全員で情報を共有することが必要である。
その施設の場合,事務を司る部署と,実際の介護を司る部署とは仕事内容も違うので分かれている。介護を司る部署も,数個のグループに分かれているので,その代表者と事務方がミーティングされる場面もあると思われる。こうしたミーティングの場でも,他の部署で起こった内容を知ることは重要で,同じことが別の部署で起こる確率は結構高いと思われる。したがって,部署間の情報共有も重要なことである。そして各部署でのメンバー全員への内容の徹底が必要である。
情報の共有と連絡徹底が終われば,実際にはそれだけでは済まない問題,いわゆる懸案事項が残るはずである。これらを,誰が,いつまでに対応するかを決めなければならない。当然,すぐ出来ることもあれば,時間の掛かることもある。それらが,確実に行われるようにアクションアイテムのリストを作っておくことも一つの方法である。
もう一つ重要なことは,情報の共有,連絡徹底だけでは,その場,或いは同じメンバーである状態では,確実に対処可能だが,こうした施設ではメンバーの入れ替わりなども多い。そうしたことに対応するためには,マニュアル化が必要である。
マニュアル化の必要性
マニュアルの重要性は今更改めて云う必要も無いかも知れないが,マクドナルドなどに代表される接客マニュアルを考えればよく判る。実際その内容を見たわけではないが,挨拶から対応まで,殆ど寸分違わずどの店でも,どの従業員でも同じである。あそこまでの徹底ぶりは見事であるが,リピータができるかできないかが商売の左右を決める重要なことなのでそうされているのであろう。
あそこまでの徹底したものでなくても,少なくとも介護施設でもいろいろな対応が求められる。それを個人の裁量だけに任せていては,サービスのバラツキ,低下を招くことは必死である。介護も人を扱う接客業である。したがって,いろいろな接し方に関する対応方法がある。多分ある程度のマニュアルは一般化されたものがあるのだろう。しかし,それぞれの施設固有のことも数多くある。それには,やはりマニュアルを充実させていくことが必要である。
こうした一つひとつのマニュアルを蓄積していくことが,その施設のノウハウになっていく。当然,対応方法の標準化,均質化にもなる。また,メンバーが変わることによる新人教育にも大いに役立つはずである。施設全体のルールは明文化されたものがあるであろうが,これだけでは実際の運用にはそれだけでは,個人の裁量でバラツキ,幅が出てくる。それらを,個人差ができるだけ少なく均質化しようとするのがマニュアルである。
ルールは絶対に侵してはならない基本が定められている。マニュアルはそのやり方の推奨例である。上手く運用できるように,ノウハウが埋め込まれたものである。新しい施設では,十分なマニュアルはまだ完備できないだろう。しかし,こうしたマニュアルを作っていこうとする気構えが大切で,それがこの施設の風土,文化を形成していくのである。
顧客の立場に立って
最後に,こうしたルール,マニュアルは施設にとって重要なものであると同時に,それらが顧客の立場に立って作られているかどうかも非常に重要な点である。施設の者が利用するので顧客は関係ないとは云えない。特に,介護など人と接することを主体とする仕事にあっては,余計に顧客の立場に立った見方ができているか否かが重要となる。マニュアル作りにもこうした思いが反映されたものであって欲しいものである。
[Reported by H.Nishimura 2008.04.28]
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