■プロセスの仕組みと問題点 (No.063)
自分たちで決めたプロセスの規程や基準に対して,問題が起こった場合どのように対処すべきと考えるかについて述べて見る。
プロセスの変更(伝承されるべきもの)
会社には規程,基準といったルールがある。しかし,いずれも完璧なものはなく,先輩諸氏から受け継がれた伝統ある規程もあれば,作りたてホヤホヤのものもある。いずれにしても運用していく中で,トラブルが発生したり,トラブルとまではいかなくても,運用上変更した方が良いと思われることがしばしば発生する。それらに対して,都度,或いは定期的に見直しをしながら,会社として組織運営上のルールが出来上がっていく。ごく一般的にはそのような形で運営されている。
しかし,実際に規程や基準を変えることは結構厄介なことである。一番難しいのは,伝統ある規程や基準を変更する場合である。これらは,時代にそぐわなくなったとか,明確な理由がある場合は良いが,そうでなく運用上,変更した方が良いのではないか,と云った場合,規程,基準の作られた背景や思想を理解しないと,思いつきで次々変えていくと最後にはとんでもない規程や基準になってしまう恐れがある。表面上に出ている文言だけで,思想まで読み取ることはできない。こうした場合,不都合な内容が一度ではなく,何度か繰り返され,変えた方が明らかに良いと判断できるまでは,変えない方が良い。一番良いのは,規程や基準の思想までが伝承されるような形で残っていることである。つまり,逆な発想に立てば,規程や基準を作るとき,どんな思想で,或いはどんな経過を経て規程や基準が作られたかを保存しておくことである。なかなかそこまでできている会社は少ないのではないか。
こうした思想や考え方が陳腐化しないためにも定期的な見直しが必要である。ISOなどの規程類は一般的には5年毎の見直しがなされており,これらのやり方に準ずるのがよいのではなかろうか。5年毎では,メンバーが一新されて以前の思想,考え方が判らなくなってしまう恐れは少ない。こうすれば,多少のメンバーの交代があっても,思想や考え方がある程度は伝承されていくことになる。
プロセス上の問題か,個人の問題か?
次に,具体的なプロセス変更に関わる問題を見てみよう。
プロセス上のトラブルでもいろいろな見方ができる。と云うのは,問題が発生するのはある特定の個人が起こすことが発端になる。そこで問題の原因をプロセスとは見ず,個人の問題と見てしまうケースである。問題が起こるたびにすぐさまプロセスの問題として取り扱うのは大変なので,同じ事を繰り返し違った人が起こした場合などに限って,その問題解決の方法として,プロセスに言及して規程や基準を見直すことにするが,そうではなく,規程や基準での縛りにも限度があり,後は運用上の問題としてしまう考え方である。
確かに,規程,基準ですべてを解決することは難しい。実際の運用は人間がやることになるので,個人の問題にすることの方が容易である。問題は,何の目的でその規程や基準を決めているかである。その目的が上手く達成できない,或いは運用上トラブルがしばしば起こる場合は,運用上の問題と片付けずに,一度プロセス上の問題がないかどうかを静かに振り返って見るのが良い。
それも同じ仲間,例えば課長レベルの同じメンバーだけで議論するのではなく,部下で実際に運用している者の声や,他部門から見た見解を聞き入れるなど多様性ある意見を求めるのが良い。なぜなら,同じ仲間だけで議論すると見方が同じ方向からしか見ないため,全員一致の意見となることが多く,本質的な問題が見抜けない恐れがある。そもそもこうした変更に関しては経験豊かな人だけで議論されるケースが多い。それだけに,ルールそのものが,経験豊かな人でしか上手く運用することができないプロセスになってしまう危険性がある。
また,問題を個人に帰してしまうと,新人や若い人にとっては負荷が重くなる。こうしたプロセスは,内容を十分把握していない新人がやって見ても間違いが起こらないプロセスにすべきで個人の気遣いなどに依存する部分はできるだけ無くした方がよい。組織は人の入れ替わりがあることを前提にしている。だから,プロセスやシステム上で人が変わっても間違いを犯さない,本来の目的が達成できるものであることが望まれる。
プロセスアプローチの考え方
昨今,プロセスアプローチと云われるように,仕事の流れをプロセスとして見る考え方が行き渡ってきている。(*1) 仕事の内容を改善したり,品質を向上させようとするとき,プロセスを明確にして,個々の仕事に対するインプットとアウトプットを取り決めることで,その仕事がきっちり出来ているか否かをPDCAのサイクルでチェックするやり方が行われる。こうしたプロセスには,必ず自分門だけでなく,関連する部門が存在する。それらが総合された形で組織間を横断したシステムとして,組織運営がなされている。
つまり,組織運営の基本となるプロセスそのものは,もちろん中心のプロセスを司るメンバーで十分議論検討し,自分たちの規程,基準を作ることが前提になっている。自分たちだけでは上手く行かない場合,ベストプラクティスに学び,他から与えられたプロセスを運用してみることも時には必要なことであるが,仕事内容が全く同じケースは少なく,多少ともその職場のカラーがある。だから,他では優れたプロセスといえども,自分たちのプロセスに修正を加えるべきである。
なぜ,わざわざこんな説明をするかと云うと,自分たちのプロセスなのに他人に規程や基準を作ってもらう場面に遭遇したからである。自分たちのプロセスを自らが作るのは当然で,他人に作ってもらうものではない。なぜならば,それはやがては自分たちの風土,文化につながるからである。
(*1)プロセスアプローチとは、2000年版ISO9001によると「組織内において、プロセスを明確にし、その相互関係を把握し、運営管理することとあわせて、一連のプロセスをシステムとして適用すること」と定義されています。これを実現するために組織は、業務の手順書を作成し、部署間のやりとり、部署内の処理について定義し、これを運営管理していくことが必要とされます。
[Reported by H.Nishimura 2008.04.21]
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