■派遣社員とは 2(No.057)

前回の続きで派遣社員についてもう少し考えてみよう。前回述べた派遣社員とは,人材派遣会社に所属して,別の企業,多くは大企業で働いている人を指している。

  請負と派遣の違い

派遣社員と云っても,厳密には業務形態の違いで扱いが違う。請負と派遣の違いは法律で定められており,雇用関係と指揮命令関係の違いである。つまり,請負とは派遣先と注文契約を交わし,仕事遂行の指揮命令,責任は派遣元の会社が負う形態であるのに対し,派遣とは,派遣先の会社が直接,作業者に指揮命令する形態である。ところが,「偽装請負」といって,請負の契約をしておきながら,実態は派遣形態同様に,派遣先の人が作業者に直接指揮命令をしている場合である。

請負は派遣先と仕事の注文を受けるので,厳密には作業の完成であって,作業時間は関係ない。つまり,作業時間を契約しているわけではない。しかし,仕事内容は作業時間に比例する部分もある。詳細なやりとりは知らないが,請負形態になっている派遣社員も,作業時間で縛られていることは事実である。

  一旦社員にすると解雇が難しい

派遣先の大企業にとっては,安い労働力の確保が容易にできるメリットがある。現在の社会制度では,会社は一方的に社員を解雇することができない。景気変動があっても社員の増減は安易にできない。したがって,一般的には,人件費は固定費として扱われる場合が多い。つまり,生産の増減に比例して労働力の必要性も比例して増減するので,本来は生産量に対して比例費的に扱いたいところであるが,人件費が固定費になっているため,生産量が減ると人件費の負担分が重くなるのである。そこで考えられたのが,単純な作業に必要な労働力を派遣社員でアウトソーシングするようになってきたのである。

これはマクロ的な観点では,企業がグローバル化しており,海外生産を到るところでやるようになってくると,コストに占める人件費が安い国での生産が有利になってくる。実際,日本の人件費の数分の一とか,或いは数十分の一と云った国がある。人件費比率の高い製品では,その違いは大きい。同じ製品を日本で作っていては,社員の高い人件費では競争できなくなってきている。そこで,見出されたのが,安い労働力で,増減が容易に可能なアウトソーシングの派遣社員制度である。

派遣先の会社にとっては,生産変動,景気変動を派遣社員の増減で調整できるメリットは大きい。比例費的な扱いができることは,物品と同様である。人件費そのものが安い上に,固定費にならない分,生産変動への対応が容易になる。こうして派遣社員の制度がいつしか日本の産業に根付いてしまったのである。この企業のメリットのしわ寄せは,すべて派遣社員に押しつけられている。少なくとも,同じ仕事で社員待遇であれば,給料,ボーナスが違う。その上,安定した勤務で生活設計がしっかりできる。それが,全く無いのである。格差が付くのは当然の結果である。

  2007年7−9月の統計 就業状態

正規の職員・従業員                       3471(万人)
パート・アルバイト                           1169
    パート                                          824
    アルバイト                                    345
労働者派遣事業所の派遣社員        136
契約社員・嘱託                                 300
その他                                             131

この数値は,正規従業員3470万人に対して,非正規雇用の従業員が1700万人,つまり3人に1人が非正規雇用の従業員ということである。パートやアルバイトではなく,雇用先から派遣として他の会社で働く派遣社員と称される人も,400〜500万人も居るということなのである。昔から,パートやアルバイトの形態の仕事はあった。主婦や学生など,自分の生活設計の中で自由な時間を仕事をして稼ぐことは,彼ら彼女らにとってもメリットがあった。

ところが,派遣社員と云われる人々は,形は正規従業員の仕事と殆ど変わらない。しかし,会社都合で,景気や生産の変動にすばやく対応でき,しかも安い人件費で雇うことができる。裏を返せば,仕事が不安定で,安い給料で働かさせられている人々が,現在の産業構造の下支えになっている実態である。派遣社員にとってのメリットは殆どない。アルバイトやパートたちの感覚とは違う。同一労働,同一賃金と昔,男女の格差をなくす取り組みがあり,現在では殆ど機会均等になってきつつある。一方,それ以上に,格差のある正規雇用と非正規雇用の格差,雇用形態の違いから違法ではないとの見解のようだが,いずれ見直される時期がくるのではないか。

  何となく手に職が付いているような錯覚

派遣社員の中にいると,正規社員の仕事の一部を任されて仕事をしているので,賃金格差はあるものの技能としてはそれなりのものが手に付いているような錯覚に陥っている。確かに,専門職としての技術スキルはOJT(0n the Job Training)で身に付く部分はある。それは仕事を進める上で,やらなければならないこと,それができないと仕事が進まないので仕事をやりながら覚えることである。

しかし,その内容は仕事内容によって様々で,スキルアップになる度合いも違う。いわば,たまたまその仕事をしたので覚えることができただけであって,その人が成長する過程で,必要なことが確実に見について行っているとは言い難い。何となく仕事をやって,新しいことを覚えたので,それで手に職が付きつつあると思っている程度だけである。

彼らには,正規の社員がどのようなプログラムを組まれた中で,成長していくのか皆目判っていない。正規の社員が時々研修で抜けることがある,といった程度の理解でしかない。主任や課長といった役職に付くための,一定の教養,或いは専門的な知識など,あることさえ知らない。だから,格差が自然に付いていくことすら判っていないのである。彼らが気づくのは,40代,50代になって正規社員との格差が大きく,考え方なども大差がついてしまって初めて,自分の歩んだ道と,正規社員が歩んできた道の大きな違いに気づくのであろう。

それではとても取り返しのできないことである。派遣社員といえども教育の機会均等を与えているかのようにどの派遣会社も謳い文句のように採用案内には書かれているが,ごく希なケースでは,行われているかもしれないが,先ずは行われていないのが実態ではないか。全てを調べていないので推測で書いているが,大手企業で組まれている教育プログラムとは,雲泥の差であると云える。最大の問題は当の本人達が全く気づいていないことである。

そんな若者を中心とした派遣社員が500万人とも云われており,日本の将来が危ぶまれると感じているのは私一人なのだろうか?

  日本の将来が危ぶまれる

「労働者派遣法」の施行は1986年,わずか20年前のことである。それ以前は間接的に人を働かせることが禁止されていた。高度成長時代の最中,技術部の中にも,チラホラ人材派遣会社から派遣されてきていた技術者が居た。人によっては,同じ職場の仲間として,職場のリクレーションなどにも参加し,数年間同じ職場に居た。給料格差はその当時からあったが,単に労働力不足を補うだけでなく,それなりのスキルを有していたし,スキルを磨く機会も多くあったように思う。今とどれだけ違うかと云われると,当時は雇う側にいたので,それほど実態が判ってはいない。

こうした派遣技術者は,日本の技術者としては当時では,まだ極限られた人口であったが,今日のように何百万人と云う技術者が,このような環境下に居ることは,非常に重要な意味合いを持つ。つまり,派遣社員の若者を見ていると,一番重要な若い時代を適切な指導者もいない状態で,働かされていることは,技術者の層がどんどん薄く,底辺にある技術力そのものが衰えて行く気がしてならない。本来ならば,きっちりとした環境で,良き指導者の下で教育を受けることで,技術が伝承され,さらにはその上に立った新しい技術が創出されていくべきなのである。

物品同様の扱いに近いと云えば,余りにも派遣技術者には失礼かもしれないが,不要になったら,もう結構です,と云った扱いを受けるような環境下で,多くの若者が潰されていく実態は,何とかしなければならないと感じる。大企業で育てられた自分自身,こうした世の中で差別を強いられている若者の一助となるようなことをできれば,と思っている。

 

派遣社員の諸君,今の生活に満足しているようではだめですよ

あなたの能力は磨けばもっともっと世の中に貢献できますよ

 

[Reported by H.Nishimura 2008.03.10]


Copyright (C)2008  Hitoshi Nishimura