■組織の成熟度合い 3 (No.049)

  ◆組織の成熟度がかなり高いレベル: 未然防止策が取れているレベル

再発防止が,もう一歩進んだ会社,組織が未然防止が図られている状態にあるものである。これは,問題が発生しそうなことを予め予測して,未然に防止策を講じておくことで問題点を発生させないのである。ここまで徹底できている会社,組織は,極めて珍しい。すばらしい会社,組織と云える。

○経験していないことは判らない
未然防止すると云うことは,何が難しいかと云えば,経験したことが無いから何をどのように防止するかも判らないのである。手探り状態なのである。

1.知識は経験から得られる
 我々の知識と云うものは,少なくとも,何かの情報で知ったか,経験したか,と云ったものに依存している。つまり,我々が知識として持っているものは,少なくとも一度は,何らかの形で会得したモノである。もちろん,経験したからといって必ずしも知識になるかどうかはわからないし,当然忘れてしまっているものもある。折角,経験したことでも,人によって得るモノは違う。だから,同じ経験をした人は,同じ知識を持っているとは限らない。問題意識の持ち方で,知識は如何様にも変わる。 

2.知らないことは対策できない
 まず,こうした知識がないと,つまり知らないと防止策は上手く考えられない。もちろん,全く知らないことを創造することはできるが,それが妥当性のあるものかどうか判断が付かない。そんな曖昧なものまで全て予防しようとしても,無意味なことが多い。当然,効率的にも悪くなるので,そうした対策をやってもムダになることが多い。未然防止とは,そうした創造を活かして,問題点を洗い出すことではない。

3.知識としてあっても活用できない
 また,知識として持っていても,いざ使おうとするとき,使い方が判らない人もいる。つまり,経験して知識として得たつもりでいるが,それの活用方法を知らないことも多い。また,全く同一のことには反応するが,少し状況が違うと応用ができない,と云うこともある。これは,経験していないことと余り変わらない。また,経験の記憶がいつまでも活用できる形で記憶されているとも限らない。


○衆知をどれだけ集められるか
会社,組織として未然防止ができているというのは,如何に経験豊富な有識者の知識が活かされる仕組みができているか,と云うことである。個人の創造ではなく,衆知の知識をもとに,問題点の発生を防止しようとすることができているかである。

1.有識者の知識を集める
 有識者,経験者が集まることで,いろいろな角度からの吟味ができることになる。例えば,あるプロジェクトで未然防止を考えるとき,そのプロジェクトメンバーで議論しても,その範囲は限られている。つまり,上述したようにそこに居るメンバーが経験したこと,知っていることに,限定される。そうではなく,上司はもちろん,同様のプロジェクトを経験した仲間,或いは,顧客からの声,品質経験者など,いろいろな人を集めて,その知識を借りることである。それが,できない状態で,未然防止の籏を上げても,絵に描いた餅に終わってしまう。つまり,持てる・集められる知識をどれだけ集められるかに掛かっている,と云えるのである。

2.MECE(ミッシー)にどれだけできるか
 つまり,こうした有識者の声を集めることが,即ち,発生の予測される問題点の洗い出しがMECE(洩れなくダブり無く)できることになる。設計で言えば,デザインレビューなどでできるだけいろいろな方から意見を集めることである。これらを,ロジックツリーなど,手法はどれでも構わないが,論理的にまとめることが,実際に対策する段になって有効になる。

3.早い段階でやること
 周知を集めることは,一方では,いろいろ云われるのでたいへんだと云う思いもあるが,早めやるのが良い。なぜならば,早い段階での意見は,問題を発生させることを考えれば,随分前向きであり,精神的な負担も軽い。ところが,プロジェクトの終わり,或いは製品を出荷する前になって,批判的に指摘されるのは,やっている側からすればたまったものではない。見えてきてからいろいろ批判するのは誰でもできる。そうではなく,未然防止は,見えない間に,如何に予防策に着手して,確実にプロジェクトなどを成功させることなのである。

○リスク管理の徹底
リスク管理とは,こうした再発防止,未然防止含めて,今後発生しそうな問題を予めリスクとして挙げて,リスクが顕在化しないようにする取り組みである。会社,組織としてこうした管理が,システマティックに行われ,問題の発生が最小限に食い止められている会社,組織は優れた,成熟度も高い組織といえる。

1.未然防止の具体的なやり方の一つ
 未然防止の取り組みで,一番具体的な取り組みがリスク管理である。プロジェクトマネジメントでも,重要な内容になっている。つまり,プロジェクトのあらゆる段階で,リスクを常に洗い出して,それの発生確率,影響度合いの大きさから,重要度を決め,その重要度の高いものを優先的に防止策を講じるやり方で,一般的に行われている方法である。

2.仕組みに落とし込むこと
 リスク管理のやり方は,誰が聞いても当然のこと,と云ったものでしかない。しかし,重要なことは,こうしたリスク管理方法を仕事の仕組み,プロセスに如何に落とし込むかと云うことである。思いついたときにやるのでは,十分ではないし,何か監査のある時にチェックするのでも不十分である。リスクはいつ発生し,いつ問題点として顕在化するかは多種多様である。したがって,組織として,こうした管理方法を定着化させ,データ蓄積を図っていくことが,より効率的な未然防止につながり,結果として,プロジェクトなどの成功率が高まることになる。それには,未然防止に対する風土・文化づくりから始めなくてはならない。

○非常に高度なこと
未然防止が図られていることは,組織体として,非常に高度なレベルに達していると云える。なぜならば,通常一般では,問題点がよく発生する再発問題の防止策までである。この再発防止策だけでも,真面目に取り組むと結構たいへんな取り組みになる。

1.組織活動の完成形に近づく
 未然防止策をとることは,問題点が起こらないようにと,チェックリストでチェックしたり,経験者を集めたレビューの会議を開いたりと,結構,時間を取られることになる。それを,再発防止だけではなく,未然防止までやると云うことは,実際には検討する範囲も広く,且つ効率的にやらないと,何をやっているか判らないことになってしまう。「石橋を叩いて渡る」ことは重要なことではあるが,スピード競争に負けていては元も子もない。つまり,スピードを加速してアクセルを踏みつつも,防止策と云うブレーキのようなものを踏みながら,バランスよく,目標に向かうことである。そのバランスを取らずに,防止策を優先すると,それこそ「一番問題を起こさないのは何もしないこと」と云ったことに陥ってしまうことさえも起こる。それほど,未然防止と云うのは難しいことである。

未然防止策が十分機能している組織を見たことがない

それでも未然防止策にチャレンジする価値は十分にある

 

 

[Reported by H.Nishimura 2008.01.14]


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