■組織の成熟度合い 2 (No.047)

次に,前述のような問題が発生してからの対応策ではなく,組織の成熟が進んでくると発生前の予防策がとれるようになる。
ディフェンスDefense(防御)からプリベンションPrevention(予防)へ
企業,組織では,問題が発生する前に予防しておくことが重要になる。つまり,一旦問題が発生すると,余計な作業,後向きの仕事が増えることになる。生産性から見ると明らかに低下するし,顧客に対しても品質的に信用を落とすことになる。したがって,問題が発生しないようにしようといろいろな方策が採られる。これは,品質確保でも重要な仕事であり,こうしたことが事前にできている会社,組織的にもしっかりしており,信用も高い。

  ◆成熟度がある程度進んだレベル : 再発防止策が取れているレベル

これが何故必要なのか。その理由はいくつかある。
  1.問題発生のうち再発問題が多い
  2.組織内のコミュニケーションが不足している
  3.人の入れ替わりがよくある
  4.個人中心の考え方が横行してきている
  5.失敗は最も良い勉強材料である(失敗学があるくらいである)
つまり,再発防止は今に始まったことではなく,昔からいろいろな形で取り組まれてきたが,昨今の状況を考えると,上述した理由のいくつかにより,さらにも増して再発防止策が組織にとってますます重要になってきている。

○発生した問題の整理

先ずは,再発と云うのだから,発生した問題がどんなもので,何が原因であったかなどが判っていなければならない。それも人の記憶に頼るのではなく,情報として共有できるものになっていなくてはならない。そのためのやり方はいろいろある。
1.ブレーンストーミング
  これは関係者が集まって過去の問題の洗い出しをするもので,ベテランの人など記憶にあるものを片っ端から出してもらう。とにかく,中途半端なものでも,思い出したものはすべて拾い上げ,充実するのは順次でもよい。既にデータベースとして作られているものがある場合は,それほど出てこないが,初めての試みだと,結構な数になるはずである。時間の経過したものは,責任の追求も薄れるため,人の記憶に頼ることになるが,結構出てくる。また,目的に沿っておればよく,厳密なものでなくてもよい。

2.ベテランがまとめる
  これは大勢でやっても余り効果が期待できない場合は,過去をよく知っているベテランがまとめるのが結構効率的である。
  それを基に,みんなで議論しても良いし,追加,修正を加えることでまとまったものに出来上がる。
  一人の人に負担が掛かるが,均質的な内容でまとめあがる。

3.プロジェクトの完了時に反省会を行う
  プロジェクトが完了するとき,みんなでこれまでのプロセスでの問題点を出し合う。こうした振り返りがきっちりできるところは組織として強くなっていく。殆どの場合,終わればそれまで,またすぐ,次のプロジェクトが待っているといった状態で,なかなか反省する機会もないことが多い。こうした反省会がきっちり仕組みに落とされると,データベースとして蓄積が進むことになる。

4.失敗の記録
  呼び名はいろいろあるが,失敗,或いは問題点を出した当事者が,必ず決められたフォーマットに則って報告の義務を課しているところがある。或いは,提案制度に取り込んで,失敗を改善提案の形で記載して登録するシステムにしているところもある。
  こうしたことが確実にできるには,それなりの風土がないとできない。失敗を揶揄したり,叱責するような土壌しかない組織ではこうした動きにはならない。失敗したことを個人の責任に帰するのではなく,組織として勉強代のつもりで,きっちりデータベース化することが肝要である。

○整理されたデータベースの活用

1.データベースの閲覧
  上記によって問題点の整理ができたデータベースを必要な関係者は閲覧できるようにしておく。但し,上記の内容は,かなりの部分がノウハウに相当し,全員が共有できる
  サーバ上におくことはセキュリティ上問題である。内容如何であるが,管理されたデータベースとして閲覧できることが望ましい。
  また,開発のプロジェクトリーダなどは,開発を始める前,或いは開発途上で,再発問題を発生させないためにデータベースに目を通すことを義務付けることも必要である。

2.チェックリスト化
  データベースでは,数が増えてくると,なかなか全部に目を通すことができなくなる。昨今は検索データベースも充実しており,必要なものだけを見ることも可能であるが,もっと確実な方法は,必要事項をチェックリスト化することである。チェックリストにしておいて,開発のステップにおいて,チェックを必須にするなどが効果的である。

3.前回プロジェクトのフォロー
  開発プロジェクトなどは,結構同じことが繰り返される。バージョンが上がっていくものや,同じ系統のものを設計変更するなど,以前に実施された内容の繰り返しが多い。ところが,同じ人がやるのではなく違った人がやることが多いので,知らないことで同じ失敗を繰り返すのである。したがって,前回のプロジェクトを徹底的にフォローしておくことをチェックすることが結構有効な働きをすることが多い。

○プロセスの改善

さらに進んだものは,同じ失敗をしないために,仕組みやプロセスを改善しておけば,誰がやっても同じ失敗は起こらなくなる。でも,ここまで徹底できるのには結構なエネルギーが必要であり,上位者がそのことを仕事として認めてあげないとできないことである。だけど,本来ISOなどが求めているものはこうしたプロセスを継続的に改善できる仕組みを作っておくことなのである。
1.改善委員会(標準化委員会)などの設置
  プロセスを改善するには,思いつきで誰でもできるものではない。小さな組織では可能かも知れないが,ある程度の組織になると個人プレイでは済まなくなる。つまり,プロセスやシステムを変えるには,それなりのメンバーが集まって承認する形,或いはトップの指示もありうるが,組織としての決定が必要である。そうした委員会ができていると,改善の運びがスムーズに行われ,生きたプロセスが運用されることになる。プロセスだけ作って有名無実で実行の伴わないものでは,絵に描いた餅で全く実用的でない。

2.暫定処置の扱い
  プロセス改善は副作用も出ることがあり,往々にして行われるのが,暫定処置である。それは,適切で素早い動きに対応でき,プロセスを改善するかどうかの試行運用期間として重宝である。しかし,多くが暫定が暫定でなくなっているケースにお目にかかることが多い。つまり,便利だから技術連絡書や品質連絡書だけで,プロセスの変更を暫定でしてしまう。これが積み重なると,何がプロセスの本流であるか判らなくなり,こうしたことで問題を発生させるケースがある。必ず,暫定処置には限られた短期間有効にし必ず見直しをすることを義務付けないととんでもない問題を発生させる恐れを含むことになってしまうので注意が必要である。

(続く)

あなたの会社では再発防止策がとられていますか?

過去の失敗が活かされていますか?

  

 

[Reported by H.Nishimura 2007.12.24]


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