■人材空洞化 (No.045)
組織力低下の話題を2回に亘って書き綴っていたら,同じようなことが話題になっていることが判った。人材が空洞化していると云うことである。このことに関して,前回に続けて述べてみることにする。
即戦力の人を採用
会社にとって,一から教え込まなければならない人より,即戦力になる人を採用したい思いは当然である。まして,流動性が激しい中では,折角教え込んだと思ったら,会社を辞めてしまった,と云ったのではたまったものではない。しかし,これまではじっくり育てることが主体だった人材育成が変化してきているという。これが日本の大きな問題であると報じられている。終身雇用だった日本の従来の制度が崩れ,グローバル化した中で,これまでの日本の強みが無くなってきている。私が,これまで2回に亘って述べてきた組織力低下が,奇しくも同じ論調で述べられている。
人の採用は景気の良いときには,その推進力に大いに役立つが,景気が後退すると途端に,固定費として重くのしかかる構図になっている。したがって,人件費を固定費でなく,変動費として扱いたいと云うのが経営側の論理である。それが高じて,外部委託社員の増加を招いている。外部委託社員の増加に対しては,「組織知」を蓄積する点から,大きなマイナス要因になっていることを述べたが,当に現場では,それ以上のマイナス面が出ているようである。即ち,社員そのものが育たない環境になってしまっているようである。なぜなら,補充は外部委託社員で賄われるため,いつまで経っても部下がいない状態が続く。要は仕事の指図はして部下同様に仕事はしてもらうことは実地訓練されるが,部下の指導・育成の機会がないのである。
こうした人がある期間を過ぎるといきなりリーダになる。つまり,部下指導・育成を徐々に覚えるのではなく,いつの間にかそうした立場になるのである。これでは,適格な部下指導・育成ができるはずが無い。こうしたケースが,組織の様々なところで起こる。人を育成することがリーダたるものの大きな役割であるが,そうした実地経験の乏しいリーダが増えてきている。つまり,指図だけはできるが,自らが人を育て,成長させることができないのである。プロジェクトを進めるに当たっても,外部委託社員に丸投げしてやらせることはできるが,自らがリーダシップを取って率先垂範できるかと云うと怪しくなる。プロジェクトはスコープが予定通りにできることであるが,その過程において,次の人が育つことも大きな役割である。こうしたことができなくなってきている。これでは,組織が強くなるはずがない。人材の空洞化と云われる所以である。
また,外部委託社員はどうかと云うと,これまた指導育成される機会は全く無いに等しい。唯一,仕事を通じてスキルをアップすることだけは,やらざるを得ないのでできる。しかし,本当の意味の人材育成は殆どできていない。委託先からは安い工数として扱われ,帰属する派遣会社からは何の人材育成の機会もない,と云うのが実態である。
現在,私自身,外部派遣社員の人々と同様に仕事をしている。彼らが何を考え,何に関心があり,何に悩んでいるかは,それほど良く判っていない。しかし,若いせいか工数にしか見られていないにも拘わらず,残業もして頑張っている。自分のスキルを上げるというよりは,残業して今月はいくら多く給料に入っているかを楽しみにしているようにしか見えない。
将来の自分の姿を描いて,それに向かって頑張っているという人は少ないように映る。そもそもそうした教育が会社で為されること自体も知らないようである。全く教育訓練,指導と云ったことをやってもらった経験がない。だから,何の不思議さも感じない。与えられた仕事を通じて,新しい仕事ができる技量を付けるだけで満足しているようである。何百万人と云われる派遣社員の多くがこうした実態である。ここでは自分自らが自己責任と云う名の基に,成長に対する責任をすべて負わされてしまっている。従来のように,会社員であれば上司から指導され,育成面の面倒を見てくれる人が居ないのである。その会社にとっては,それでも良いのかも知れないが,日本の企業として考えると,大いなるマイナスでしかない。
このように人の育成を放棄している会社が,従来と比較すると断然多くなっている。人を育成するには,一人前になるまでには,随分費用が掛かる。それだからといって大企業が社員である集団だけを教育し,半数以上を占めるようになってきている外部派遣社員の教育は放棄している。彼らには,自己責任と云う名の下に,必要なスキルは自分で付けなさいと言っている様に見える。一見,合理的なやり方と云えばそれまでだが,大きな落とし穴が待っているような気がする。最近は,優秀な外部派遣社員は社員化する傾向も一部に出てきている。モチベーションを上げる方法として有効に作用しているが,こうしたやり方も,派遣している会社からすれば,優秀な人だけが抜かれていくことになり,果たして末永く続くシステムかは疑問が残る。
とにかく人の問題は永遠のテーマである。
他人事ではありません。あなたの会社で起こっている現実です
[Reported by H.Nishimura 2007.12.10]
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