■組織力の低下 2 (No.044)
前回の続き,組織力低下のポイントを続けてみよう。
帰属意識の希薄化,欠落さらに拍車をかけるのが,社員そのものの帰属意識の希薄化,欠落である。会社を一生働く職場と思っていない人が増えてきている。出世などは二の次で,生活ができれば,そこそこの給料が貰えれば,会社に縛られること無く,楽しく人生を送った方が良いと考える人が結構居る。そうした人は,会社のために何かしようと云った発想は元々ない。個人中心の考え方である。
「組織知」なんて云っても,全く箸にも棒にも掛からない。昔もそうした人は中には居たが,周りが会社人ばかりなので,単独でそうした行動が採り難い環境であった。ところが,そうした人が一人ではなく何人か出てくると,そうした会社としては身勝手な行動が目に付くようになってくる。やがては,多様性の一つと若い世代の風潮だと認めざるを得ない状況になってきている。全員でベクトルを合わせて頑張ろうというときも,個人としての自由,損得の判断が先にある。ヒエラルキーの組織だと枠に嵌められ,会社人として矯正されるが,フラットな自由な組織ではそうしたこともない。
個人中心の考え方が何が悪いんだ,と云う反論もある。確かに,個人の生活を犠牲にして会社人として働いたような我々団塊の世代のやり方は,決して良いとは云えない。有無を云わさずそういった環境に慣らされてしまっていた,とも云える。しかし,そうではなく,やはり人間として,個人としての生活も会社生活以上に大切である。ところが,個人中心の考え方の多くが,自分だけよければ良いんだ,と云った自分勝手な個人主義が間違ってまかり通っている場面もしばしばある。個人主義は重要だが,それは社会生活,仲間との共同社会で生活していることを忘れてはならない。つまり,ある程度のバランス感覚である。
したがって,会社生活で帰属意識を持って,みんなで何とか会社を盛り上げて,頑張って利益を出そうとすることは,個人主義を否定することにはならない。むしろ,そうして会社が繁栄することで,個人生活が潤う面も大いにある。そうした面から見ると,現状の多数の外部委託社員が居る会社環境は,必ずしも帰属意識が盛り上がる環境でもなく,どちらかと云えば,帰属意識が希薄化する傾向にあると云わざるを得ない。せめて社員の意識は,外部社員も引き込んだ会社を盛り上げる方向に働いて欲しいと思う。
価値獲得はできても,価値創造ができないリーダリーダ像についても,大きな課題を挙げておきたい。会社生活で,利益を上げなければならないことは,数値で評価に現れるので,待ったなしであり,誰もが最も関心事になる。会社が赤字だと上から下まで辛い思いをしなければならない。悪いケースではボーナスカットもありうる。そうしたことから,価値を獲得する,即ち,付加価値を少しでも付けて,アウトプットを出すことは,社会人だと誰しもが身についている。新入社員でもすぐにそうしたことは教わる。
ところが,こうした価値を生み出すには基がなければならない。利益がでるためには,何か他社と優位性がある技術があるとか,どこにもない新しい技術を開発したとか,或いは,非常に付加価値を顧客が認めてくれるような商品価値がある商品が開発できたとか,そうした価値を創出するものが必要である。そのためには,突然そうしたことができるわけではない。長年に亘って積み重ねられた技術や,或いはハイリスクなことに挑戦したものとか,が結実した結果である。こうしたことは,偶然できるのではなく,リーダが強い意志をもって,ある一定期間を要してできるもので,目先の利益ばかりを追っているようなリーダには為しえないことである。しかし,こうしたリーダはだんだん少なくなってきている。経営トップそのものが,目先の利益に縛られていることも大いに関係している。
これは,オーナー社長の企業では,上手く回っているケースが多い。と云うのも,サラリーマン社長,或いは事業部長の場合,2,3年利益が出ない状態が続くと,必ず交代させられる。したがって,仕組み上,目先の利益を追わざるを得ないのである。それに比べると,オーナー社長は,長期ビジョンで会社が良い方向に向かう戦略的な経営が可能で,2,3年の赤字でも,資金力で耐えられれば,そして将来性の有望さを株主に認めて貰えればできるのである。即ち,目先の利益よりも,価値創造のための仕込み,新技術導入や新事業への転換など,大胆な施策が可能である。
実際には,オーナー,サラリーマンのいずれの社長でも,優良な企業といわれるところは,トップ自らが,価値獲得だけでなく,価値創造に力を入れている。そうした企業では,会社としての長期ビジョンをしっかり立て,周囲の人を十分納得させてやっている。だから,中間管理職も価値獲得だけでなく,価値創造に熱心に励んでいる。要は,トップから中間管理職まで,経営者としての価値獲得と価値創造のバランス感覚である。リーダたるものそうした経営のバランス感覚を養わねば,将来がないのであることを肝に銘じて欲しい。
長期展望がない前述したように,価値創造を考えるには,長期的な展望,ビジョンが無くてはできない。つまり,短期的にやろうとしても無理な課題が多いのである。そうした中で,会社のトップをはじめ,中枢の幹部が,長期的な展望に立って,会社をどのようにするかを考えていないようでは,将来が思いやられる。経営層の上になるほど,長期展望が重要となる。
ところが,この長期展望,ビジョンがないのである。いや,厳密に言えば,中長期計画などが作られているところもあるので,無いと断言はできない。あったとしても,社員全員を強いリーダシップを持って長期ビジョンを徹底させて会社全体で進めているところは少ないだろう。しかし,形式よりも,長期ビジョンの中身であり,それが実際に全員でベクトルを合わせて,行われているかどうかが,重要なのである。こうした意味では,長期展望が無い状態である。
この状態が続くと,本当に企業としての将来が危ういと云わざるを得ない。
以上,どれをとっても,会社の組織力に低下を来たす要因ばかりである。危ういというのが単なる年寄りの感傷だけではないことをわかっていただけただろうか?
組織力強化の見直しを早急に!!
強い組織力で元気のよい日本企業再生を!!
[Reported by H.Nishimura 2007.12.03]
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