■組織知の作り方 (No.042)

「組織知」が重要なことは説明したので,今回は,組織知を作り上げる基になる,形式知と暗黙知について述べてみることにする。

かなり一般的にも用いられるようになってきているので,多くの方が知っておられるのではないかと思われるが,この形式知と暗黙知は,次のように相対する内容になっている。

暗 黙 知

形 式 知

主観的な知(個人知) 客観的な知(組織知)
経験知(身体) 理性知(精神)
同時的な知(今ここにある知) 順序的な知(過去の知)
アナログ的な知(実務) デジタル的な知(理論)
ノウハウ(記述できない) マニュアル(記述された)

上表からもお判りのように,人,個人に付いて廻る知識である「暗黙知」に対して,会社,組織に蓄えられる知識である「形式知」に大きく区分される。ただ,個人のものはすべて「暗黙知」で,公のものはすべて「形式知」と云うわけではない。確かに云えることは,両者とも非常に重要なものであり,仕事をする中で,知識として蓄え活動の基になるものである。

そこでこの二つについてもう少し,具体的に,かつ簡単に説明すると,次のようになる。

1.「形式知」とは,ドキュメント化され,人に伝達される形になった知識である。
主に文章化,図表化,数式化などドキュメント化によって説明,表現できる知識のことを指す 。企業,個人にとっても,知識を整理する点では,形式知化することは重要なことである。ただし,「形式知」が多く蓄えられたからといって,必ずしも優位になる訳ではない。「形式知」の代表格はインターネットの情報である。インターネットに接続できて見ているからと云って,必ずしも優位に立てるわけではない。

2.「暗黙知」とは,人の頭の中や身体に身に付いた知識である。
人の経験や勘に基づく知識のことで,言葉などで表現が難しいもの。職人が親方から伝統を受け継ぐなど,昔の技術の伝承はこうした「暗黙知」によるものが多かった。我々が自転車に乗るコツや,水泳で泳ぎ方のコツを身につけると,いつまで経っても自然と身に付いてしまっている。これらは,どれだけ本やHow-to本で学んでも,体験して身につけないと判らない「暗黙知」の領域である。昨今は,技術蓄積など「形式知」が重要視されるが,知識として最初に創造されるのはこの「暗黙知」である。

3.「暗黙知」と「形式知」の両方が上手く作用しあうことが重要である。
人に伝達される形になっているから,「形式知」の方が重要である訳ではない。知識は「暗黙知」と「形式知」の双方が上手く作用しあって,有効な知識になるのである。「形式知」を組織知として蓄えておかないと,組織として十分ではなく,また一方で,個人から出てくる「暗黙知」も大切にしないと,組織としては成り立っていかないのである。上手く両者がバランスよく必要なのである。
 
次に,形式知と暗黙知の相互作用について説明する。
これには,有名な「知識創造企業」(野中郁次郎 著)に詳細に書かれているが,そのポイントは次の図である。

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この図は,各頭文字から「SECI」モデルと云われ,次の4つのステップがある。

1.「共同化」(Socialization)−− (ノウハウとして蓄積)
どこがスタートと云うわけではないが,先ず親から子,先輩から後輩,あるいは熟練者から未熟練者へと,共通の経験を共有することにより,言葉ではなく「体験」によって,知識を伝授し獲得するプロセスである。獲得された知識は,個人の中にあり,まだ言葉にはなっていないので,「暗黙知」である。

2.「表出化」 (Externalization)−−(ノウハウをドキュメント化する)
個人や組織が体で覚え,共有・統合された知識,即ち「暗黙知」を,言葉や図表のような明確な形式で表わすことをいう。ここで,獲得された知識は,「形式知」となる。一般に,組織知として蓄えるように云われるのは,このプロセスの形式知化が代表的なものになる。ここで,初めて,個人の領域だけでなく,仲間と共有できる領域が出来上がるのである。

3.「連結化」(Combination) −−(ドキュメントを整理,結合)
表出化によって形式知化された知識を組み合せて,新たな知識を創るプロセスである。「形式知」は蓄えることが目的ではなく,その「形式知」を活用することである。つまり,蓄えられた「形式知」を整理,統合,結合などいろいろな形にすることのより,新たな「形式知」として出来上がる。

4.「内面化」(Internalization) −− (ドキュメントから学び新たな知識を創造する)
このようにして得られた知識,即ち「形式知」を元に,個人が行動し,実践することによって,新たな経験や学習結果が「暗黙知」として個人の内部に蓄積される状態を言う。                            


「組織知」が作り上げられると云うことは,この「SECI」モデルのサイクルが回ることである。つまり,「暗黙知から形式知への変換」,「形式知から暗黙知への変換」,と云った「SECI」モデルがスパイラルになって上昇することで,「組織知」が形成されていくのである。
こうしたサイクルがきっちりできている企業は,新製品が次々生み出され,新しいものの創出が確実に行われることになる。

しかし,企業の実態を見てみると,まだまだ「形式知」や「暗黙知」と云う言葉だけが一人歩きしている。本当に,これらが組織を強化するには不可欠なものであり,これらを上手く蓄え,組織強化を図っているところはそれほど多くない。ナレッジマネジメントと云う言葉が一世を風靡したことがあったが,それも一つのブーム的なものに終わってしまっている。特別取り立ててやろうとするから,なかなか上手く行かないのである。それよりも自分たちの組織を強くするために,どんなことをすべきか,素直に考えれば,自ずと答えは出てくるはずである。こうした余裕さえも無いのだろうか?それとも,重要なことがもっと他にあり,そんなことを全く考えていないのだろうか?

 

「組織知」を如何にして高めるかは企業の生死にも関わる重要な課題である。

 

[Reported by H.Nishimura 2007.11.19]


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