■事実(FACT)について (No.040)

前回はデータと情報の違いについて述べたが,「組織知」の説明をする前に,そのときに述べた「事実(FACT)」について気になったので先に考えてみることにする。

「事実(FACT)」とは,文字の通り,実際にあった事実で,誰も否定できない,動かし難いものである。だから,いろいろ論じるときに,ファクトに基づいた発言かどうかが,問われる所以でもある。ファクトとは,データの場合も,情報の場合も両方ある。一般的には,データそのものは,事実であるのでファクトであると云われるが,データそのものではなく,データの採り方でファクトとは異なった情報にまつりあげられることがある。ファクトが重要視されるのは,議論したり,判断したりするときなどの基本となるもので,誰もそのファクト自体に反論することはできないものである。

一方,意見や評価はその人の思いが入っており,必ずしも正しいとは限らない。事実と違ったことだってある。したがって,人の意見や評価を鵜呑みにして基準として,物事を判断したり,意見を述べても,その基準そのものが覆ることがあることを認識しておかなければならない。通常,一般の生活ではそれでも,困ることは先ずない。しかし,仕事上で仲間や上司と議論するときは,十分気をつけなければならない。

また,無意識のうちに「事実(FACT)」から外れていることがある。それは,一つには誰にでもよくある先入観である。これがあると,同じものを見たり,聞いたりしても,先入観で見聞きしてしまう。そうすると,本人は実際に見聞きした事実であるから間違いないと思っていても,実は先入観というフィルターが掛かってしまっていることがある。また,客観的に見るためにと思って,定量的なデータを集めたつもりでも,先入観で偏りのあるデータになってしまっていることがある。これはなかなか本人は気がつかないものだから,周りが指摘してあげなくては判らないものである。先入観とは違うが,前提条件や仮説でも似通ったことになることがある。

我々が,仕事上でファクトの重要性を感じるのは,問題解決に当たっているときである。問題の原因を探るとき,なぜなぜと問いかけるのは,表面的な現象ではなく原因に辿りつこうとするためである。また,なぜなぜと繰り返すことは,一方では事実を抉り出していることに他ならないのである。現場で,現物を見ながら解析することは,紛れも無く事実を暴き出していることである。よく仮説を立てて解析することもあるが,あくまでも仮説であることを忘れてはならない。仮設に合ったデータばかりを拾うようなことがあってはならない。そう云ったことがなければ,事実から事実へ,そして深いところにある原因に行き着くはずである。

注意しなければならないこともある。一番多いのは,一般的に「常識」になっていることは,案外疑うことをしないことである。しかし,こうした「常識」といわれることが,意外に客観的に証明されているわけではないことが多い。「昔からやっているから」「これは,当然のこと(常識)である」と疑いもせず,信じているケースがよくある。これも先入観である。こうした場合には,次の質問をするとよいと言われている。「それは事実ですか?」と。

コンサルタントは,いろいろなところで鍛えられているので,このファクトを非常に重視する。雑誌で読んだ話だが,一般的に公表されているデータでも信じることをせず,自らが裏を取って議論したり,指導したりすると云われている。人を説得するとき,ファクトに基づいていることが一番訴えられるからでもある。コンサルタントの仕事は,ファクトを徹底的に調べることから始まる。もちろん,仮説を立ててやるのだが,その検証はすべてファクトに基づいて行われる。ところが,我々一般は,誰々がそう言っていたからとか,何々にそのように書かれていたからとか,いとも簡単に,他人の説を引っ張ってきて論じる。また,これが通常一般には,会議などでも通るのである。よくよく冷静になって考えてみると不思議である。しかし,誰も不思議とは思っていない。大企業のトップでも。

人は誰でも効率よく上手くやりたい。しかし,上述したファクトをきっちり採った上で,議論したり,判断したりとなると大変な労力を要する。つまり,これまでの経験や勘,それにある程度の客観的なデータがあれば,ファクトが突き止められなくても,間違いを犯すことは少ない。そうしたことを経験上,心得ている。したがって,すべてにおいて,ファクトを徹底的に暴き出すことはしないのである。しかし,大きな決断をしなければならないときや,原因究明が必要な場合には,必ずファクトに基づいてやることが大事なことを忘れてはならない。経営で,「現場・現物・現認」と云われるのは,当に,ファクトが重要であることを云っている。

また,仕事ばかりではなく,日常生活において,私たちは毎日,新聞や雑誌を見ている。その記事の中での「事実(ファクト)」と「意見・見解」をきちんと分けて読むことが大切である。記事と云うものは,事実・データをベースにインタビュアーが推論し,ストーリーを作り上げていくものである。また,回答者が必ずしも「事実」を語っているとは限らない。「大げさ」「誇大表現」が入っている可能性は大いにある。したがって,何が事実で何が事実ではないのか(インタビュアーの主観なのか)をきちんと認識した上で,記事を読まなければ,物事の本質は見えなくなることがある。 こうしたことを日頃から心掛けているのといないのでは,いざと云うときに,物事の本質を捉えていないと間違った判断を下す結果となる。些細なことであるが,重要なことである。

あなたは,ファクトを意識して物事を考えていますか?

ファクトの大切さをじっくり考えてみてください

 

次回は,「組織知」について考えます。

 

[Reported by H.Nishimura 2007.11.05]


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