■研究開発と設計部門の役割 (No.037)

研究開発を中心に仕事をしている部門と,製品を生産する事業場の設計技術部門とでは,製品開発の流れからも上流と下流で,自ずとその役割が違っている。つまり,前者は,より創造的な仕事で,新規性のある技術や,競合他社に差別化できる要素技術などを新しく生み出すことであり,後者は,前者からの技術を受け継ぎ,決められた日程に,決められた製品を出荷するために,決められた手順にしたがって設計し,製造などへ引継ぎを行うことである。

会社の規模や業種によって違うが,研究開発は研究所とか開発センターと名づけられた部門があり,設計部門は物づくりしている工場と同じ場所で事業部の技術部門と分かれている場合がある。分かれている場合の長所,短所は別として,一般的に日々の仕事に追われる事業部の技術部門に仕事が集中し,中長期の開発がそのために遅れることのないように,同じ場所にあっても,研究開発しているメンバーと設計しているメンバーを,明らかに役割を分けて組織化しているケースは多い。

そうしたケースで,開発管理規程などいわゆる開発のルールを見ると,大きく二つのタイプがある。一つは同じ会社であっても,開発部門なので事業場のような開発管理規程で縛ることなく自由の裁量を加味したルールにさせているところと,殆ど事業場と同じ開発管理規程を使っているところがある。もちろん,後者の場合,開発部門として形式上の違いをつけているが,中身は殆ど同じルールを使っているところも含まれる。どちらが良いのだろうか?

それぞれに一長一短があり,一方的にどちらにすべきとはいえない。むしろ,両者のバランスを上手くとるべきだろう。こうしたバランスは果たして誰が決めているのだろう。多くの場合,前者のように開発部門として自由にさせているところは,組織そのものが未熟だったり,開発中心で新しいことに挑戦しながら会社を大きくしてきたケースだったり,開発部門が全てをコントロールしている会社で見られる。一方,殆ど事業上と同じルールを運用している場合は,組織が安定した大きな企業や,品質管理部門が規程類など会社をコントロールすることを任されている会社に見られる。いずれも,社内では自分たちのやり方でバランスが上手く取れていると思っている。事実,こうして成長してきているからの証でもある。

そもそもルールとは,いろいろな背景をもとに,その時代に合った,且つ,その職場に最も適切なものであるべきである。だから,一度決めたからといってそれをいつまでも変えずに守り通すのは必ずしも良くない。また,これまで上手く行っていたやり方なので,それを変えるのは何か不都合があった場合である,と固執するのもおかしい。ルールとは,その時代,その職場によって常に見直されるべきものである。ところが,なかなかそうはなっていないのが現状である。一度,決まってしまうといつまでもそのままズルズル運用されてしまっている。余程の不都合が無い限り,誰も変えようとはしない。

開発管理規程に関して云えば,開発部門と設計部門では,基本的な部分は同じでも,内容的には違っているべきだと考えている。理由は,新しい創造的な仕事をする部門を,管理徹底された設計部門と同じルールで縛るのは無理がある。というのも,管理されていることには越したことがないが,それ以上に,新規技術や新製品を創出することがまず第一の使命である。多少の管理漏れは見逃しても良い。いわば,大きな魚を捕らえるとき,粗い目の網で多少破けていても,何回もトライして捕まえる方が,緻密な網でゴミのようなものを一杯すくってそれが邪魔で大きな魚を捕らえ損なうよりも適切である。ただ,自由勝手に捕らえるのではなく,網を使って捕らえる(ルールに従って)ことは守る。

他方,事業場の設計部門は,研究部門と違って,新規技術の創出はしないが,製品発表したものは確実に決められた日までに,決められた品質を確保した製品を出すことが使命である。つまり,小さな魚も逃がさないように,緻密な網目で,破れたようなところは全く無い網を使ってやらないと,製品となって品質問題が発生するなど損害を発生させる可能性がある。そうした事態にならないようにしなければならない。

私は研究開発,設計の両部門を経験しことがあるので,そう感じている。

しかも,それを判断するのは管理部門ではなく,技術行政として技術のトップが判断すべきもので,それを支える技術スタッフがきっちり進言すべきである。ともすると,技術スタッフは管理的な業務に忙殺され,開発者からも管理として見られがちであるが,本来の役割は,開発者が組織の中で,一番能力を発揮しやすい環境を提供するために,技術部門としてどうあるべきかを考え,それをルール化,つまり開発管理規程などに落とし込むべきである。事業場で使っているから,或いは全社的に規程があるからそれに倣ってと安易に考えるのではなくあるべき姿から検討すべきである。でも,なかなかそのようにできていないのが現実である。そもそも技術のトップの意識そのものが,技術行政としての自分の仕事だと思っていない場合もある。さらには,それを支える優秀なスタッフも見当たらないのが実情である。

これらも管理とマネジメントの違いである


開発部門はその役割を果たしていますか?(のびのびと仕事ができる環境ですか?)

規程が上手く活用されていますか?(不都合はありませんか?)

 

 

[Reported by H.Nishimura 2007.10.15]


Copyright (C)200  Hitoshi Nishimura