■管理とマネジメント (No.036)
管理することとマネジメントすることとは意味合いが違う。経営者はマネジメントをやっており,部下に指示する場合も,マネジメントに対するエンパワーメントである場合が多い。しかし,現実には部下の多くがマネジメントを十分理解せずに,管理することと理解してやっていることがある。その事例を挙げて,管理とマネジメントとの違いを説明してみる。
1.良くできている事例を横展開(言われたことを真面目にそのまま)
組織(会社全体も含む)の統廃合のときに,起こる問題である。組織運営が上手くできているにはそれなりの理由があり,背景がある。それを知らず言われたことを鵜呑みで横展開すると,必ずしも良くならないことがある。大きな組織と小さな組織,それも業容が若干違った組織が統合された場合,必ず上手く行っているのが大きな組織で,小さな組織はそれらのよいところを見習うように上からは指示されることが多い。トップの指示は,良いところをそのまま取り入れるのではなく,そこの組織に合った形で良い点を見習って上手く自分たちに合った形で取り込むようにとの指示である。ところが,実際の実務をするメンバーには,その意向がなかなか伝わらない。場合によっては,大きな組織の実務者が乗り込んできて,征服者ではないが,それに似たような権力で立ち振る舞うことがある。つまり,今までのやり方が拙かったので成果が出ないのだ,このやり方をやれ,とばかりに,そっくりそのままのやり方をやらせる。乗り込んできた本人はこのやり方で成果が出ているから,よいやり方と信じている。さらに,上から見習えとのお墨付きまで貰っている。
こうした場合,やっている本人は全く悪気も無く,むしろ良くなる方法を伝授しているのだから,感謝こそされ,文句を言われる筋合いはないと信じている。でも,受けて側は必ずしもそうではない。確かに,上手くできているやり方なので,取り入れるメリットは大いにある。しかし,それをそのまま取り入れたのでは,小さな組織にはやることが重厚すぎることがある。大きな組織だからこそ,できることである場合があることを十分理解できていない。受けて側としては,今までのやり方では上手く行っていないことは認め,改めることは当然だが,良い点を上手く自分たちに取り込む方法はないものかと素直に考える。
一方,指導する側は小さな組織に合ったやり方に変えることはそれなりのエネルギーがいるし,また変えたやり方で上手く行く保証はないし,自信もない。それだったら,そのまま今までやっていたことをそのままやらせた方が簡単である。何も考える必要はない。或いは,そのままやらせることが自分の役割だと思ってる例もしばしばある。受けて側が反論でもすれば,躍起になってそのまま導入することを正当化しようとする。そうなると話し合いにもならない。元々征服者感覚である。
こうして大きな組織でやっていることを良しとして,小さな組織に導入すると,最初は無理矢理にでもやらせようとする。受け手側も無理を承知だが,やらざるを得ない状態になる。さらにルールや規程などにされてしまうと,破ることはできなくなってしまう。その後は,硬直化した管理することだけが目的になったやり方が残る。不合理だと,不平不満を言っても,こんどはルールを傘に指導される。こうして小さな組織は機動力を失い,技術部門であれば,結果的には市場で何ら競争力のない,管理はやっとできても,肝心の役割である新しいものの創出などとはほど遠い状態が出来上がってしまう。これが果たして良いやり方なのか?
このような事態は,組織ではしばしば起こっている。これは,管理とマネジメントの違いを如実に表している例である。トップはマネジメントとして,良い例を横展開として図るように命じているのに対して,中間のマネジメントが働かず,実務者が管理する立場として,物事を処理しようとしているのである。中間マネジメントが実際管理として指揮している場合もあるが,マネジメントが十分判っていない,或いは,中間マネジメントは部下に指示するだけで,実務者である部下がやっている場合もある。これでは組織マネジメントが上手く回らない。
しかし,もっと大きな問題は,こうしたことが日常茶飯事行われていて組織として問題にならないことである。長いものに巻かれろ,といった風潮である。中間マネジメントがしっかりしている組織では,こうしたことは回避される。実際やっている内容の詳細にまでチェックが入るのである。しかし,のんびりとした大きな組織では,事を荒げることがタブーで,マネジメントも自分にマイナスにならないかどうかを中心に考えている。経営のことなど上がやることと決め付けている。ただ管理的にはしっかりと,何一つ問題ないと思われる組織である。しかし中間の,現場マネジメントができないとこういう事態が起こるのである。
2.プロセスの統合(他部門でやっていることをそのまま)
組織の統廃合までの規模ではなく,仕事のプロセスを併合したり,統合したりする場合はよくあることである。特に,規程,基準などの統合には十分な配慮が必要である。なぜならば,このルールに則って全員が仕事をするからである。こうした非常に重要な内容も,詳細な内容を詰めることもあって,普通一般に実務者へ全部任せてしまっていることがある。本来は,実務者と同じくらい内容を理解した経営者が指示,命令,チェックをすべきである。ところが,なかなかそうはなっていない。
こういった場合,どんなことが起こるかと云うと,実務者は,詳細な内容に長けている。したがって,詳細なことから始める。考えるスタートが実務的な側面からである。しかし,規程・基準などと云ったものは,大きなことから考えないと,歪なものになってしまう恐れがある。つまり,全社の方針や経営スタイル,行動基準など理解した上で,物事の後先の判断も入れながら構成する必要がある。規程・基準は,会社の将来の風土・文化に育まれるものである。実務者が作っても,施行されるまでには,会社幹部がチェックする仕組みがあるとは云うものの,詳細な内容を把握した上でのチェックには程遠い。形式上の承認であることが多い。
ところがこうしたことが通常一般的に行われている。会社のルールに則って,経営トップまでが確認できる仕組みがあり,それを着実に実行できているから,大きな間違い,そんな経営ロスを生むようなことは無いはずであると信じ込んでいる。ところが実際は,経営者と実務者の意識,特にマネジメントに関するギャップは大きいのである。それを考慮せず,実務者が作ったものを経営者が承認する形だけで,そのまま規定化してルールを運用すると,経営的なロスが出ることが多いのである。実際,こうしたロスはトップ経営者には見えない。経営的感覚を持ち合わせた中間管理職が居ればこそ,こうしたマネジメントロスは見つけられる。いや,規定化される前に,作成上の段階で修正が加えられるだろう。しかし,こうしたことができる中間管理職は実に少ない。自分の限られた仕事だけ忙しい,精一杯の状態にある。つまり,自分の組織だけを管理することはできる中間管理職は居ても,会社として,或いは上の組織としてのマネジメントできる管理職は少ないのが実態である。
技術企画,技術管理と云った組織を作っている部門もある。本来はこうした部門が,トップマネジメントの意志を理解して,技術部門の行政を司るべきである。しかし,なかなかそうしたあるべき姿の役割を果たしているケースは少ない。一般的には,技術管理,総務的な,決められたことをルールに則ってコントロールしているだけの場合が多い。と云うのも,そもそもそうした部門に配置される人が,組織マネジメントに長けているからではなく,第一線から退いた人で管理はできるだろうと思われる人だからである。もともと,経営者的感覚は持ち合わせていない。そうした人が,プロセスをどうすべきか検討するのだから,大きな見地から検討する訳ではなく,自分の経験した範囲で物事を考えてしまう。ここで検討されたものが,上まで行ってしまい,ルール化されてしまうのが多くの場合の実態である。
あなたの組織の規程にムダを感じていませんか?
管理がよくできいても新製品が出ない組織は,どこかに欠陥があります
[Reported by H.Nishimura 2007.10.08]
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