■全体から見ることの重要さ 1 (No.031)
どの視線で物事を見るか?
目線を低くして物事の詳細をきっちり把握することは大切なことである。上っ面でなく,物事の本質を掴もうとすると,詳細に深く掘り下げてみないと,なかなか本質のところに辿り着かない。我々はそうしたことから,現象面からその原因を探るために,いろいろな手法ややり方をビジネス書や先輩諸氏や学んできている。新人に対する社会人としての教育にも,こうしたことは繰り返し教えられている。物事を見て判断するときの基本中の基本ともいえる。
ところが,そうした訓練が身に付いているせいか,逆にいつまで経っても自分の目線でしかものが見られない人が居る。とにかく,目の前の現象から物事を見ようとするのである。いままでの経験の狭い視野で物事を覗こうとするのである。このことは不思議なことではなく,殆どの人がやることで当然なことである。むしろ,こうしたことも自分自身ではきっちりできず,人に頼ったり,流れに身を任せたりして,自分で何もできない人が増えている中では,良しとすべきなのかも知れない。
長い仕事の経験上,先輩諸氏から「一段上の目線で物事を見,考えてみろ」と指導されたことがある。普段の仕事でも,問題で壁にぶつかって,どうしようもないとき,誰かがちょっとアドバイスをしてくれるときなどがある。つまり,自分の目線に固執して物事を一つの側面からだけでなく,違った目線から物事を見ることによって,新たな発見があったり,物事がはっきりしたりする。努力すべきは,一段上の目線から(上司の立場に立って)見ることである。これには日ごろからの訓練が重要である。
しかし,実際には,若い人,特に経験の少ない人は,自分の目線から離れようとしない。それで目一杯の人もいれば,そうでない人でも目線を上げて見ることを教わったことがないと,なかなかできない。自分の目に見えることが全てのように感じている。或いは,それは上の人の仕事である,と割り切っている人もいる。残念なのは,教わっていなくて知らないことである。知っていて能力がそれだけなくて,できていないなら仕方ないが,目線を上げて見ることのやり方を知らないだけの人もいる。少しのアドバイスで,大きな成長のきっかけになる。
全体から見る
仕事の進め方にはいろいろなやり方がある。最も単純なやり方は,毎日上司がやるべき仕事内容をやり方含めて説明してやらせることである。これは肉体労働など,単純作業には,一日の作業としてはっきりとしており,理にかなったやり方である。
ところが,技術者やスタッフの仕事は,今日の仕事はこれだけと云った単純なものではない。全体の流れの中から,今日はこの部分をやろうと決める。言い換えれば,全体が判っていないと,その仕事がタイムリーにできているのかどうかが判らないのである。
このように冷静になって説明すると判るのだが,日常,問題の発生や突発事項の処理などがあると,つい目先のことを処理することが仕事になってしまっていることがある。その結果,一生懸命頑張っているが,成果に結びつかないと云う事態に陥っていることがよくある。
技術者の仕事は,仕事によってはトラブル解消が役割であるが,一般的には,知識を活用して,新製品を創造したり,製品を改良したり,新技術に挑戦したりといったことが主たる仕事である。こういった仕事を進めるには,まず全体の構成を考えることが重要である。
いきなり思いつきでやっても,その部分では成果が出ても,目標とする大きな成果には結びつかない。先ずは,目標(ゴール)を定め,その目標に辿り着くシナリオ,プロセスを検討することから始めなければならない。この最初の企画,構想が非常に重要である。
これができないと,技術者の仕事にならない。
もちろん,若い技術者がいきなりできるわけではない。最初は上司から指示された仕事をやり遂げること,即ち,上司の期待に応える仕事をすることである。最初はそうであっても仕事をやっていく中で,その仕事がどんな意味を持っているか。或いは,全体のどの部分の仕事を任されているのかと,視野を広めていくことが,自分の仕事のやりがいを見出すことにつながり,より大きな仕事ができることになっていくのである。つまり,全体を知ることは単に知識として知るだけでなく,スキルを磨く方向性もわかり,モチベーションを高めることにもなるのである。そう云った観点で,技術者は全体を見ることを心掛けて欲しい。
また,我々は物事を判断するのは,自分の目線で,これまで経験した中での情報や知識を使って行う。したがって,経験不足や知識不足で十分な判断ができない場合がある。これは当然なことである。しかし,同じ情報や知識でも,少し高いところに立つと視野が広がるように,目線を上げて全体を俯瞰することで,より的確な判断ができることがある。逆に,経験者でもいつも同じ目線で,しかも限られた穴から覗くように物事を見ている人はなかなか適切な判断ができていないことを経験したことがあるだろう。フィルターを掛けて物事を見る人も同じである。こうした拙い例を持ち出さなくとも,視座を高めて見ることの重要性は判ってもらえるだろう。
(続く)
あなたはどんな目線で物事を見ていますか?
全体を見るには視座を高めることである
[Reported by H.Nishimura 2007.09.03]
Copyright (C)2007 Hitoshi Nishimura