■知識と実行力 (No.029)

昨今の会社生活では年功序列ではなく,実力主義の時代と云われている。求められるものは経験年齢からスキルへと変わりつつある。一口にスキルと云っても幅が広く,職務上に必要なスキルを定義づけされ,それを身につけるよう求められるようになってきている。我々はこのスキルを何とかして取得しようと努力している。

まず,我々はいろいろな情報,資料などから学習する機会を得る。最も身近なものは,学生時代に授業で学んだことである。これらは,人によって大小はあるが,知識として蓄えられる。社会人になってからは上司,先輩などから教わることである。しかし,これらの知識があるからといって,それらが使えることとは必ずしも一致しない。行き当たりばったりで,知識を得ようともせずにがむしゃらに行動に出る人も居るが,その人をして実行力があるとは,云わない。知識に裏付けられた行動が出来る人が実行力があると云われるのである。

同じように,上司やコンサルタントがバックアップしている状態で,あたかもある決められた仕事ができても,それをもってその人,或いはその職場が仕事が出来るようになったのではない。上司やコンサルタントのバックアップが無くても自律して出来るようになって初めてその仕事が出来るといえるのである。もちろん最初は,自動車の仮免許と同じで,指導員が同乗している状態で,自分で自動車を運転してみる。この状態で,あるレベル以上になれば仮免許合格となり,さらに本試験を受け晴れて免許証が交付される。

ところが,大きなプロジェクトや大人数で仕事をしていると,教育(OJT)や指導をしただけで,仮免許運転もさせずに,知識を与えただけで仕事を任せるケースがある。その試練が仮免許だと言ってしまえばそれまでであるが,往々にしてこうした場合は失敗する。個人の場合には,上司などが比較的放り出したとはいえ,出来ない場合にはフォローが入る。しかし,複数人や組織になるとそうは行かない。
極端な場合は,出来が悪いで済まされず,結局元の状態に戻ってしまう場合がある。特に,改革などこれまでと違ったやり方にチャレンジした場合など,コンサルタントがついて指導している間は,やり方も云われるままにしていれば,そこそこの成果が出る。コンサルタントはそれだけの能力を有しており,知識を与えてやらせてみて,成果を見せる。しかし,コンサルタントが居なくなった途端元の木阿弥に戻ったと言うケースは多い。

これは定着化のプロセスが欠落しているのである。一番多いのは,引継の責任者が曖昧なままに放置されてしまうケースである。コンサルタントやコーチがついて指導している間は,その指導に基づいてやらされているのである。それをあたかもできると勘違いしているだけである。特に組織や複数人で引継責任者が曖昧なままだと,リーダシップを採る人が居なく自然消滅してしまうことが多いのである。本当は,定着化するためのプロセスが,知識を得るプロセスとは別に必要なのである。最近は,シミュレーションでケーススタディをやらせることが多いが,ケーススタディはやはり,演習でしかない。実際とは違うのである。

優秀なコンサルタントは定着化するまでを考えているが,教わる側がそうした知識がなく,費用などの関係もあって,知識だけで終わってしまう。経営トップもすぐに成果を求めるため,コンサルタントが指導しているパイロットなどで判断してしまう。コンサルタントは一般的には,最初からシナリオを組み立てている。しかし,受ける側は新しいいろいろなものを教わり,それに付いていくだけで精一杯である。そうしていると,シナリオ通りにある程度の成果ができあがる。これをコンサルタントが最初からシナリオを作っていたとは誰も思わない。やれば自分たちにもできるんだ,と勘違いしてしまう。その上に,トップから,「それ以上,何が必要なのだ,十分指導してもらったではないか」と云われると,論理的に説明できる人は少ないのである。

しかし,その組織にある風土・文化まで変えるほどコンサルタントには時間がない。風土・文化までを変えるのはそこに所属する人たちである。一見,自分たちでできたように感じたことも,風土・文化に根付いていないと元に戻ってしまう。コンサルタントたちができるのは,風土・文化を変える気づきを与えてくれるのである。その気づきを,本物の改革につなげるのは教わった側の組織に所属しているリーダたちでしかない。このことをしっかり自覚していないと,コンサルタントたちが去って暫くして,あれは何だったのか,結局高い指導料を払っただけのイベントに終わってしまってではないか,と云うことになりかねないのである。確かに,知識は多くの人が授かった。しかし,それを自分のものにして行動に移す人は殆ど居ないと云う実態である。

知識と実行力との違いがこうした場面で現れるのである。

 

あなたの職場はコンサルタントに指導して貰ったことがありますか?

知識は豊富になったと思われますが,自分の行動に移していますか?

また,その成果は,自分たちの風土・文化に根付きましたか?

 

[Reported by H.Nishimura 2007.08.20]


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