■新製品がなかなか出てこない 4 (No.025)
新製品開発の課題の最後は,人の力,意志の問題を考えてみよう。
新製品開発を一人でやり遂げたように華々しく報道されることがあるが,そんな例は殆どない。たまたま,すごくリーダシップを発揮した開発者が居たというケースもあるが,一般的には,グループで開発が行われる。そこには,純技術的なものよりも,人間くささが溢れた現場があるのである。開発物語でスマートにまとめ上げられているが,そんなものは現実ではない,と云うのが実感である。言い換えれば,人の力,人の意志,仲間との連携,共同作業,そうしたものが新製品を創出させてくれるのである。
技術者のモチベーションを高めるには
そこで先ず,新製品を開発するにはある程度の技術レベルが無くては実現しない。つまり,必要なのは,「組織力」=「技術力」=モチベーションの高さ,ではないだろうか。個人としてのスキルはあっても,新しいものを創出して事業化するには,やはり組織としての力が不可欠である。その組織としての力になるのは,何と言ってもそこに居る技術者のやる気である。本当に技術者をやる気にさせるのは,そんなに容易なことではない。
真面目に上から言われたことをきっちりやり遂げていると思っていても,それは給料を貰うために義務として働いているのでは,技術者がやる気を出しているとは云えない。受け身的,義務的,指示命令に従って,と云うパターンでは,なかなか画期的な新製品は生まれない。自分はそうではないと思っている技術者,或いは技術責任者でも,「会社組織だから上からの指示命令だから仕方ない」,或いは,「本意ではないが組織としてそうせざるを得ない状況なのだから」,と云った言葉をつい口をすべらすことがある。経験上からであるが,こうした状況下では,その組織でのモチベーションが高いとは云えないのである。
それではどうすれば技術者のモチベーションを高めることができるのだろうか。先ずは,全体像をきっちり示し,目的,目標をはっきりさせ,的確な情報開示し,上司部下が共有することである。そうしておいて,やり方については技術者に任せ,先ずはやりたいことをやらせるのである。もちろん,技術者個人の個性があるので,そうした環境で伸び伸びやる人間も居れば,きっちり指示をしないと自分からは動けない者も居る。しかし,技術者としては何よりも自分の考えていることを伸び伸びとやれる環境が一番である。
失敗を怖がる必要はない。ただ,同じ過ちを繰り返すことは不可である。私はよく部下に,「前に転んだ失敗は大いにしろ! 立ち止まって何もできなくて失敗することはするな!」と言っていた。積極果敢にチャレンジして失敗することは,不確定な新製品創出にはあってしかるべきことなのである。失敗を恐れる余り,無策に終わることが新製品開発では一番いけないことなのである。こうしたコミットメントが技術者に浸透していると,技術者は自ずと自分で考えて行動し始めるのである。これが,自分から進んでやるモチベーションを高めることに繋がっていくのである。
もう一つ,何か新しいことをやろうとすると,必ず自分たちの弱みが見つかる。得てしてやりがちなのは,この弱みを何とかしなければならないと,先ずは考える。そしてその対策を練る。しかし,市場では競合他社と競争をしているのである。弱みの部分が補われたとしても,他社並である。致命的な欠陥ならば補正は重要であるが,そうでなければ,弱みを知った上で,強みの部分をより尖った強みに仕上げて差別化する方が余程効果的である。技術者も弱みを補うよりも,強みを更に伸ばす方が,モチベーションも高まるのは疑いもない事実である。「弱みを是正するよりも,強みを伸ばす」このことを肝に銘じておいて欲しい。
執念が足りない
最後は,新製品を作り上げたい,世の中に出したいと云う技術者の執念がどれだけあるかにかかってくる。不確定要素の一杯ある新製品開発には,ルールに則った道のりはない。初めての道を切り拓いていくことが通常である。したがって,起こる事象が初めて出くわすものが多い。過去の経験から類推できるものもあるが,当たって砕けろ的な,とにかくやってみる心構えが必要なのである。次々いろいろな壁にぶち当たる。簡単に乗り越えられるものもあるが,大抵は難関なものが多い。こうした道のりを最後のゴールまで辿り着くには,かなり精神的な強さが求められる。
壁にぶち当たって立ち止まっていると,上司からハッパを掛けられたり,仲間から督促されたり,胃が痛くなるほどの精神的な苦痛を強いられることがよくあるものである。こうしたとき,独りで考え沈み込んでしまうとなかなか抜け出せないことがある。仲間を信じ,「時間が解決してくれる」と云った気持ちでいると,その通り時間で解決できたり,或いは仲間がヒントをくれたり,ほんの些細なことが良い方向へと向かわしてくれるものなのである。あきらめず前向きにいることが大切である。
なかなかそんなに上手いことはない,と感じる人も多いだろうが,人は本当に切羽詰まった状態に置かれたらどうすればよいか。絶対に最後まであきらめないことである。それは,技術者であれば,未完成品の製品をもう一度よく見つめて欲しい。過去のデータも思い込みで見るのではなく,もう一度自分で取ってみることをやって欲しい。そこには,問題点を解決するヒントが必ずある。よく「現場を見ろ」と云われるが,全く新製品開発も同じである。困ったときは,基本に立ち返り,製品を見つめ直すことである。そうすれば,「製品が答えを教えてくれる」のである。実際に,私が経験したことで,新製品開発中断を宣言させられる寸前で救ってくれたのが,私自身でデータを取り直して居る中で,あるヒントが隠されていたのを発見したのである。その喜びは,未だに忘れられないものである。同じような感動を是非,技術者の皆さんにも味わっていただきたい。
あなたの職場に当てはまる新製品開発の問題点がいくつかあったでしょう?
新製品は仕組みだけでは生まれません。最後は人の持つ創造力の発揮です。
困難に屈せず,最後まで執念を持ってやり遂げよう!!
[Reported by H.Nishimura 2007.07.19]
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