■新製品がなかなか出てこない 3 (No.024)

新製品開発の課題を別の観点からもう少し続けよう。

新製品には必ず新しい技術が一つ以上盛り込まれている。既存の技術だけを寄せ集めて新製品を作ることは皆無ではないが,新しい技術を盛り込むことで,製品に新しい機能を追加したり,性能を向上させたり,長寿命化・高信頼性などと云った製品を作り出そうとしている。その新しい技術をどのようにして盛り込むかが新製品開発のキーになる。セットメーカでは,製品の中央部を占める重要機能については,自社で開発することが多いが,周辺機能や部品はそれぞれの専門企業に任せることが多い。

代表的な自動車開発では,発売の数年前から開発がスタートする。新車のコンセプトを基にして,それに適した新部品の採用や部品の開発をさせる。新車モデルの発売は早くから確定されるので,それに見合ったマイルストーンで,部品の完成度如何では振り落とされることもしばしばである。つまり,必ずしも完成した新部品を集めているのではなく,部品の並行開発もしばしば見受けられる。

要素技術開発のあり方の問題点

つまり,新製品にはいろいろな要素技術が集まって創り出されるのであって,新製品開発にはその基となる要素技術開発が重要な役割を果たすのである。そこで,この要素技術開発について,新製品創出の観点から考えてみることにする。

1.要素技術開発のスタートが遅い

新製品開発において,一般的には要素技術開発が終わったものを採用する。或いは新しい要素の入った新部品を採用する。と云うことは,商品開発よりも先行して,要素技術開発,或いは新部品開発が行われなければならないことを意味している。ところが実態は,要素技術開発と並行しながら新製品開発をやっていることは珍しくない。

本来は新製品のロードマップがあり,それに先行した要素技術開発のロードマップがあって,それらに基づいて要素技術開発が行われなければならない。しかし,現実には後述する理由などで,なかなか早くからスタートができていないのである。つまり,要素技術開発が遅れることが,結果的に新製品が遅れたり,新しい機能が追加できなかったり,新製品開発への影響が出るのである。

2.要素技術開発への要求が不十分

新製品開発の目標仕様ははっきりしてプロジェクトはスタートするが,それらをブレークダウンした部分仕様があって,メンバーが分担して新製品開発を行うことは通常一般的な進め方である。ここで問題になるのは,部分仕様と要素技術開発仕様とが必ずしも一致していないことである。

もう少し具体的に例を挙げて云えば,新材料を開発する仕様と,その材料が製品として使われる仕様とが必ずしも一致していないのである。つまり,製品として使われる仕様を翻訳して新材料開発を要求するのであるが,この翻訳が上手くいっていない場合がある。材料の専門家と製品設計の専門家では,同じ技術者でも使う言語が違う。

先ずは製品設計者が材料のことを理解して要求仕様を出すことであり,また,材料技術者は使われる製品の仕様を十分理解して材料開発をしないと,開発ができても製品仕様にマッチしていない,或いは大きな欠陥がある,と云った事態がおこることがある。判っている筈の微妙な差が,要素技術開発では最後に大きな差となることがあるのである。

3.商品開発の全体像を知らされていない

前述の項目に関係する内容であるが,要素技術開発者に新製品の全体像を知らしていないこともよくあることである。この要素技術開発をしてくれたらよい,と云ったもので,全体スケジュールはおろか,製品の使用用途も知らないまま,要素技術開発しているケースを間々見かける。もちろんこうした場合,商品企画段階での要素技術開発者の参画もさせていない。

商品技術設計者がしっかりしておればそんなことは大きな問題ではない,と云うケースもないことはない。しかし,スピードが求められ,変化への俊敏な対応が求められる今日,誰かからの指示でしか動けないと云うのでは負けてしまう。メンバーの一人ひとりが商品開発の全体像を知っており,それに対して方向性が危ういと感じた人間が進言し,素速くコミュニケーションをとり,判断していくことが重要になってきている。

特に,要素技術開発などは先行しているので,最初から不確定要素が多いのであり,当初の目標から状況変化することも間々あることを覚悟しておかなければならない。そう言う意味で,変化への対応を素速く取れるには,全体像を知っておくことが不可欠なのである。

4.下請的で技術者のモチベーションが低い

企画段階に要素技術開発者を参画させていないのは,要素技術開発は下請的仕事と見なされているのである。商品開発をする技術者は花形で,要素技術開発者は黒子,下請的である構図ができあがっていることがある。このような構図では,素晴らしい要素技術開発はできず,結果的に素晴らしい新製品もできないということになってしまう。

効率を求める仕事をする場合,一般的にはルールに則って素速く仕事をするベテランが能力が高い。新人は一生懸命それに追いつこうと努力するので,モチベーションはそれぞれの職位で一定に保たれる。ところが新製品開発は,ベテランだから新規技術の創出が優れているとは限らない。まとめ方や進め方には大きな差があるが,新規技術にはそんな差はない。そうした中で,要素技術開発だからと云って下請的な扱いをされると優秀な技術者は,新人でもモチベーションが下がってしまう。

5.要素技術開発のロードマップがない

商品開発の技術者が悪いような表現したが,要素技術開発者にも問題がある。商品開発のロードマップがあって,それに基づいた要素技術のローダマップが必要であると前述したが,商品あっての要素技術なので当然と云えば当然なのであるが,要素技術の流れに沿った要素技術開発のロードマップもあってしかるべきである。

と云うのは,商品ロードマップだけに頼っていると,要素技術が細切れになって十分育たないきらいがある。つまり,要素技術には,太い幹があってそれが枝分かれしながら,葉ができ,実がなる絵が描けるはずである。要素技術にもこのようなしっかりしたロードマップが作られるべきである。もちろん要素技術者が自我自尊するだけのものではなく,商品の流れとの融合を十分吟味して,商品技術者の意見も採り入れたものにすべきである。

そうしたものが無いと,余計に前述した下請的な発想に陥ってしまって,負のサイクルになってしまい,結果的に新製品にも貢献できないことになってしまう。要素技術開発のロードマップもしっかり作っていないと,自らが受け身的な存在に成り下がってしまうことになる。

6.要素技術が深耕されていない

要素技術と一言で云ってしまっているが,その中身は随分広い。中身の技術内容そのものは固有であり,その事情は様々であるが,その要素技術がどれだけ深耕されているものか,と云うことは重要なことである。と云うのは,製品が市場で競い合っている中では,競合他社とどれだけの違いがあるかという差別化が重要なファクターとなる。

つまり,要素技術が深耕されていると云うことは,他社が真似ようとしたとき,そう易々と真似ができないことを意味している。いくら新しい要素技術だといっても,浅いものでは,すぐにキャッチアップされてしまう。先行優位性が殆どないのである。しかし,深耕された要素技術になっていると,他社が真似ようとしてもなかなか真似ができなかったり,あるいは追いついたとしても相当時間を要することになる。

常に半歩先をリードすることが新製品開発とも云える。この常に半歩先が確保できるのは,要素技術を深耕させることが大きな意味を持つのである。

7.要素技術開発には時間を要するものがある

商品開発はどちらかと云えば,新しい技術の組み合わせである。できたものを組み合わせて,調和を取っていち早く目標に到達させようとする仕事である。しかし,要素技術開発は無から有を創出する不確定要素が満載のものであることが多い。言い換えれば要素技術開発には相当な時間が掛かるものが多い。

前述したように時間が掛かると云うことは,その間の状況変化にも大きく影響されることを意味している。当初の開発目標が最後まで正しいとは限らない。途中で修正されることは多いのである。このことは裏を返せば,一つの結果を出すまでに時間を要し,その上,途中で目標を変えさせられることまで起こるのである。

技術者として評価されるには不利な条件が揃っている。しかし,こうした要素技術開発が,本当は新製品開発には最も重要な役割なのである。この重要な役割を正しく評価できないようであれば,新製品の創出は困難と云わざるを得ない。

(続く)

あなたは要素技術開発にどのように関わっていますか?

要素技術開発を疎かにしていませんか?

 

[Reported by H.Nishimura 2007.07.12]


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