■新製品がなかなか出てこない 2 (No.023)

新製品開発の課題をもう少し続けよう。

多くの会社では,品番が異なっているだけでも新製品と定義して,技術活動を伴っているから当然である,と云う技術責任者が居る。組織的な立場上,そう言わざるを得ない背景は十分理解できるが,経営者を初め,社員はよく知っている。彼らが新製品と呼ぶのは,経営の柱となるような新製品を期待しているのであって,新製品比率など数字の遊びには全く興味はないのである。

組織の問題(トップの理解)

新製品が出てこないと嘆く経営者が多いが,そもそも新製品が出るような組織になっているかどうかを,先ず考えて欲しい。新製品の創出はある日突然,発見したように出てくるものではない。新製品を創出するための準備,資源(リソース・資金)を充てなければ,いくら叫んでも新製品は出てこない。ところが,新製品が出てこないと嘆く経営者に限って,そうしたことを怠っていることが多い。

そもそも技術活動は,現状技術を維持・改善していくことと新しい技術を創出することがある。これだけならまだしも,自分たちの会社の現状をよく振り返っていただきたい。多くのところが,何か問題があれば技術,やれ何かをしようとすれば技術,品質問題が発生してもその解決は技術と,全てに技術が関わっているのではないだろうか。技術がスペードのエースでオールマイティの切り札になってはいないか。これでは,本来の技術活動は疎かになると云わざるを得ない。

あくせくと働くことが仕事をしているのだ,と云う感覚は通常の一般の日本人の感覚である。じっくり物事を考えている人はのんびり仕事をしていると思われている。こうした風土・文化の中で,新製品の創出にじっくり時間を掛けて仕事をすることは難しいと云わざるを得ない。現状の,多くの企業の実態がこれに近い状態である。

しかし,そんな中でも新製品を創出している企業がある。こうした企業では,必ず新製品を創出することを目的とした部門が,或いは小さくても組織化された部署がある。この組織のミッションは,日頃の技術問題ではなく,新製品を創出することが役割である。技術部門全体で,こうした新製品創出のための組織に割り当てる比率は会社の経営状態や規模によっても変わるので,一律何%とは云えないにしても,こうした組織を持つかどうかは,経営者の判断である。先ずは,新製品開発に理解のある経営者が居るかどうかが問題である。

新製品開発は効率を上げることで生まれはしない。しかし,経営とは効率を上げることである。即ち,経営者が効率を求める余り,新製品の創出するという仕事に対して,真から理解しているケースは少ないように感じる。これは新製品開発をしたことがある技術経験者でしか判らない部分がある。無から有を生み出す難しさ,それは合理的なやり方や効率を求めるものとは異質である。この異質を,理解するには経験するか,或いは自分で経験できないならば,経験者を参謀に持つしかない。それもトップの言いなりの参謀でなく,経営者に苦言を進言できる参謀である。素直な心を持った経営者には,優秀な参謀が必ずいるが,新製品の出ていない会社には,そのどちらも掛けている場合が多い。

研究所から新製品が出てこない

研究所を作っているから大丈夫,それだけのリソースは与えてある,と云われる経営者が居られるが,本当に新製品が創出されていますか?研究所が,経営者が思われているようなミッションをきっちり果たしていますか?事業化を成し遂げた経験もない技術責任者に任せていませんか?

大きな企業には,必ず研究所があって,ここでは現状の技術活動(維持・改善)から隔離され,新しい技術を研究開発することが目的とされた組織になっている。技術リソースとしては申し分ないのだが,インプット(技術人員・研究開発費など)の割に,アウトプット(新製品の創出,事業化される製品)が不十分であることが多い。

それにはいろいろな要因があるので一言では言えないが,次のようなことが考えられる。

@現状維持・改善の仕事をしている

技術者なら判ってもらえるが,新製品を創出する仕事は,現状の技術活動(維持・改善)と比較すると比較にならないほど難しい仕事である。不確定な要素が一杯あり,なかなか成果に結びつかないことが多いのである。組織で仕事をしていると,成果が求められるので,技術責任者そのものが,より楽な,より確実な仕事を選択する。つまり,何時芽が出るか判らない新製品よりも,現状品を少し改善した製品や顧客から引き合いのある製品の設計に手を出す傾向にある。

新製品の定義が会社によって違うが,少し改善した製品は殆どの会社は新製品と扱う。このことは,研究所のミッションに合うことになっtしまっている。つまり,本来,新製品の創出を目指している研究所が,実は中身を詳しく分析してみると,半分以上が現状品の改良や,引き合い製品の対応をしていると云う実態は驚く事なかれ,殆どといっても良いのである。これでは,新製品の創出はできない。

A事業化には興味なく,技術に興味ある集団になっている

もう一つのパターンは,研究所上がりの組織責任者になっている組織で起こるパターンである。新しい技術に対する興味は大いにあり,そうした環境下で育ってきている。こうした責任者は,技術の新規さ,オリジナリティ性に関心が強い。技術者としては当然であり,このことは技術者として何ら問題はない,と云うより,技術者の鏡でもある。ところが,そうした技術責任者に限って,その技術が活かされ事業化されることには無頓着な人(性格と云った方が正しいかも知れない)が多い。こうした責任者は,学会で発表したりすることに成果を求める。

技術者には多いパターンである。技術力は素晴らしいので,その技術力を事業化に活かすマネジメントが必要なのである。その点,事業化を経験している責任者は,技術力そのものよりも,事業化できて初めてその技術が評価されると考えている。上に立つ人の姿勢で,大きく方向性が定まってしまう。

B評価の方法が不適切である

昨今の風潮であるが,研究所などは裁量労働制を採り入れているところも出てきている。つまり,研究所の仕事は,何時間働いたからそれに見合う給料を貰うのではなく,研究成果に対して給料を払うシステムが採り入れられている。ホワートカラーエグゼンプションが議論されているが,既に実施されているものである。

技術者にとって,裁量労働制は本来は望ましい姿である。つまり,インプット(掛けた時間・費用)ではなく,アウトプット(成果物の内容)で評価しようとするもので,技術活動を正しく評価しようとするものである。ところが,問題も多い。特に,新製品創出にはアゲンストの風が吹く。なぜか?技術者にはピンとくるものがあるだろう。

成果物の評価方法の問題である。成果が出ないと給料が減るとなると,技術者は成果の出るものに群がる。これは何を意味しているかと云うと,新製品創出と云った不確定要素が高く,成果が出るまで時間が掛かる仕事を技術者がしなくなると云うことを意味している。そうではない,開発のプロセスをきっちり評価する,と云った責任者もおられるかも知れないが,その責任者だって上司から評価を受けるわけだから,見える成果が出る方を選択するのは当然である。

仕組みの問題

これは大企業によく見られる問題である。組織がしっかりしていると,そのルールもきっちり決められている。いろいろな失敗事例や事故事例から同じ過ちを繰り返さないように再発防止が図られ,ルールとして落とし込まれていく。そのこと自体は,経営的にみても,技術的に見ても当然のことであり,やり方そのものは何ら問題はない。

ところが組織が大きくなると,こうした仕組みに管理という枠組みで縛ろうとする考えが出てくる。その代表的なのが品質部門である。品質を良くするためにルールを定め,技術者をコントロールしようと云う動きである。通常一般に技術開発を行っている部門を持っている企業では,新製品の開発管理規程などルールが定められている。技術者はこの規程に則って新製品を開発しなければならない。ISO9001を取得している企業では,品質マニュアルで,開発のルールの実施内容がチェックされる。

こうした管理主体のルールがいつの間にか,技術者の活動を束縛し始める。管理する側は品質部門が主体となるため,新製品が出るか出ないかをチェックする役割ではなく,品質マニュアルに沿った仕事ができているか否かがチェックされる。ここで本来は技術マネジャー又は技術責任者がこうしたルールに関心を寄せ,本来あるべき技術から見てルールが決められているのならば良いのだが,こうしたことに不得手な責任者は多く,品質部門がまとめたものを追認し,形だけは技術責任者が決めたことになっているものがある。

よく聞く話に,重厚な規程,ルールがあるので,新製品開発がたいへん,新製品開発が遅れるなど,と云う話を技術者から聞く。詳細内容を見ると技術者の言い分がよく判る。しかし大勢は,技術者がそもそもいい加減な仕事をしているからだ,或いは品質問題を出している技術はそのくらいなことをしなければ良くならない,などと云う意見である。技術部門の創造的な活動をルールでがんじがらめに縛ろうとするのは大きな問題である。新製品の創出に対して,競合他社に大きなハンディを負うことになっている。技術部門は,問題はあるが何とかルールを守るようになってきた,と安心されている経営者,品質責任者の旁々,本当にこれで会社は良くなりますか? 新製品が出てこない技術部門で良いのですか,と問いかけたい。

仕組みはその中に入ってしまうと,風土・文化と重なって,異常なこと,本来の目的から外れてしまっていることになかなか気がつかないのである。

15%ルール

新製品創出の素晴らしい仕組みを紹介しておこう。新製品創出で優れていると云われている3Mと云う会社がある。ここでは,有名な15%ルールと云うものがあって,自分に与えられた仕事以外に,持ち時間の15%は自分の興味の持つことをやってもよいことになっている。「ポストイット」がこの仕組みから生まれたとされている。実際に,現場に居合わせた訳ではないので,外から判断するだけであるが,こうした仕組みが会社としてできていることは素晴らしいことである。ISO9001などの誤った使い方のルールで縛っている会社と差が出るのは当然である。(注釈:ISO9001を正しく解釈した使い方では,新製品創出を妨げるものではない)

与えられた仕事に対して忙しく働くことが美徳とされ,それが勤勉と云われる日本の風土・文化にはなかなか馴染まないものと思われるが,何か新製品創出に向けた風穴を開けるような仕組みが欲しいものである。

(続く)

あなたの所属している部門は新製品創出に向けた組織・仕組みがありますか?

研究所から新製品が出てきますか?

裁量労働制は上手く機能していますか?

 

[Reported by H.Nishimura 2007.07.05]


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