■新製品がなかなか出てこない 1 (No.022)

これは技術責任者なら誰しも一度ならず感じたことがあるだろう。そして,技術責任者として,最も頭の痛い問題である。

科学的方法論をかざしてみても

技術者はたくさんいるのに,なかなか新製品が思い通りに出ない。技術活動が怠慢かと云えばそうではなく,技術者は忙しそうにしており,他のどの部門よりも残業も多いし,土曜日など休日でも出勤して頑張っている。組織は,技術部門としてきっちり組織化されている。でも肝心の新製品がなかなか出てこない。こんな思いに駆られている経営者や技術責任者は多い。

こうした状況を打開するために採られる施策がある。それは,これまでの経験則だけに基づいて開発が行われているからであり,最新のITツールを使ったり,欧米で行われている科学的なやり方を導入すべきである,とコンサルタントを入れたり,有名なツールを導入したりして,何とかしようと試みる。

今までの経験則だけではなく,科学的分析ツールを使ったりすることで,一見技術活動がアドバンスしたようにみんなが感じる。確かに,従来の経験則のやり方とは違って,合理的,且つ効率的なやり方になっている。技術者の意識も少し変わってきた,とトップや責任者は感じ始める。技術活動が変わってきたのに,一向に新製品は出てこない。何が間違っているのだろうか?

市場や顧客の分析もでき,SWOT分析もきっちり行い,攻めるべき戦略もきっちりできているのに,これで新製品が出ないのは,技術者自身の能力・スキルに問題があるのだろうか?と,疑いの目が技術者に及んでくる。

右脳が作用していない

新製品が出ないのが,技術者の能力やスキルに依存することは大いにあり得ることである。しかし,その前に,よく考えて欲しい。以前の経験則のやり方から科学的方法論を取り込んだやり方で何が変わったのだろうか?

科学的方法論は,通常,科学的と云われる所以があるように,論理的に問題を解決しようとする手法である。即ち,これまでの経験則での仕事のやり方は,経験者のカンに頼って仕事をしていたやり方を,論理的に課題を整理・分析し,そこから解決策を見出そうとするやり方に変えることである。今までカンでやっていた市場や顧客の分析を3C,4P,5F,或いはSWOTなど,これまで多くの企業が用いてきたフレームワークを採り入れることで,新鮮であり,何か変わり,新しいことができるような錯覚に陥るのである。

事実,技術活動のある程度の部分は,効率が上がり,これまでのやり方よりもスムーズに課題が解決し始める。責任者は鬼の首を取ったとまではいかないまでも,これまでのやり方が如何に拙かったかを反省しつつ,変わってきたことを自負するようになる。ところが,変化が見えだしてからしばらく経っても,新製品はなかなか出てこないのである。何か設計変更品的な新製品は,以前よりもスピーディにできるようにはなったきたが,肝心の新製品と云われる大きな柱が出てこない。なぜなのだろうか?

論理的な進め方は,技術活動の効率を高めるには非常に有効であり,技術活動には必須の要素である。これは,脳科学では左脳の働きを活発にさせたものである。しかし,新製品とは,論理的な活動だけで,創出できる物ではないのである。つまり,新製品,世の中にない物を創り出す働きは,人間の右脳が作用するものなのである。いくら,論理的に左脳の働きを全開して,フル回転させても創造的な仕事はできないのである。できないというと語弊があるが,左脳で効率を上げて,創造に充てる時間が作れることは事実である。つまり,あくせく残業ばかりして,じっくり考えなかった技術者に考える時間を作る出せるメリットはある。

時間ができたから,じっくり考えるから,新製品ができるものではない。右脳を働かせる訓練が必要なのである。もちろん,右脳はひらめき,直観の世界なので,人の性格,特徴にもおおきく左右される。とにかく,組織として,右脳の作用を取り込んだ技術活動をしない限り,新製品の創出は無理なのである。

暗黙知の領域(形式知にするのが困難)

世界市場でシェアを80%以上を有するセンサを開発した経験から,どのようにすれば,こうした新製品が開発できるかを考えてみる。正直,成功した原因はいろいろあるが,こうしたら新製品開発が成功すると云ったHow−toで,伝えられるものは少ない。もちろん,そうした経験から成功の要因は大きく5つほどあるが,決定的なものではなく,またそれらが新製品開発の必要十分条件とは思えない。云えることは新製品開発に重要な,必要条件だったことくらいである。これもあくまでも後付である。開発中から意識してやっていたわけではない。

何を言いたいかと云うと,こういう条件が揃えば新製品開発ができる,と云った回答は無いのである。あるタイミングにおいて,ある条件を満たすチャンスを上手く利用したひらめきのようなものなのである。論理的に後からいろいろとそれらしきことを付け加えることはできても,それは真実ではない。それに携わっていた責任者,技術者のひらめき,思いが結果として,素晴らしい新製品に結びついただけである。世界シェア80%以上になったのは,開発者の努力ではなく,それを事業化した人々の力である。開発者はその種を蒔いたのである。

技術的に素晴らしい製品が必ずしも事業化され,大きな柱となる商品に育つとは限らない。もちろん,そうしたい思いは開発者は持っているが,実現するにはいくつかのチャンスを活かすことができて初めて,思いが現実となるのであって,ロジックで詰めていったからできたということではない。戦略的に上手く行ったからでもない。たまたま上手く行ったという方が真実である。

このことは,新製品を上手く大きく育てるには,暗黙知の世界であって,形式知化したやり方があるわけではないのである。この技術者が持っている暗黙知を上手く活かすように采配を振るうのが技術責任者の大きな役割なのである。強いて挙げるならば,好奇心旺盛で何事にも積極果敢にトライできることが,いくつかの失敗の中から新製品の創出という大きな芽が育つことになる,と云えるのではないか。

(続く)

 

あなたの会社の新製品比率はどれだけですか?

新製品の定義は?(設計変更品でも新製品と呼んでいませんか?)

 

[Reported by H.Nishimura 2007.06.28]


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