■失敗を考える 4 (No.021)

私自身も,企業活動の中でいろいろな失敗をしてきた。技術を中心に活動してきたので,設計ミスにより,不良の手直し,リコール寸前の処理など,被害総額は詳しく計算したことはないが,多くの人を巻き込み迷惑を掛けた経験がある。それら体験談を述べながら反省してみる。

電子部品には寿命がある

モジュール・ユニットと云った電子部品を集めた制御回路を設計していた。代表的な電子部品である抵抗とかセラミックコンデンサなどは通常,使用温度範囲内であれば,半永久的に使える。また,半導体でも,使える温度範囲内でも,ある程度ディレーティング(素子の故障率を少なくする目的で、素子の定格よりも十分低いストレスで意図的に使用すること)すれば,これも半永久的に使える。したがって,使用条件(電圧・電流・温度など)を考慮すれば,寿命については,殆ど問題はない。ところが,電解コンデンサはそうではない。使用温度が10℃上昇すると,寿命が半減する。ここまでは,一般の電子回路設計者であれば,知識として知っており,カタログに載っている寿命特性を確認して余裕を持って設計する。

私が失敗した例は,ユニットの設計に電解コンデンサを使い,寿命が持たなく,容量抜けになる可能性を発生させてしまった。と云うのも,当時,電解コンデンサは85℃ 1000Hと云った寿命のものが一般的であった。これだと使用平均温度が30℃として,約40000余時間(24時間使用で約5年)である。24時間使用(コンデンサに電圧が掛かった状態)のケースは少なく,一般の家電製品にはこれが多く使われている。後から考えると,一般的に使われているコンデンサだから,普通の制御機器だったら大丈夫だとの先入観があったようである。ところが実際には,使用環境が壁の中に埋め込まれた制御機器で,他の部品の発熱もあって,使用温度が50℃を超える状態が持続する劣悪な環境になっていたのだった。(先行モニターテストで発覚)

ある程度(このいい加減さが問題なのだが)の温度上昇は予測していたのだが,電解コンデンサの10℃上昇すると,寿命が半減の法則に基づくと,一気に寿命が約10000Hになってしまうことが判明。制御する装置そのものの保証している寿命には全く及ばず,量産間際に,電解コンデンサのグレードを上げる設計変更を余儀なくされたのである。

環境条件(最悪条件)を甘く見る

これも電解コンデンサにまつわる話である。電解コンデンサは,温度によって容量が変化する。低温では容量が減少する。このことは,電子回路設計をする者にとっては常識である。自動車用電装品は取り付ける場所によって,使用される温度範囲が違ってくる。失敗した事例は,保安部品でダッシュボード内に取り付けられるので,通常人が居る空間なので,−25℃までが一般的な使用範囲である。

ところが,この制御回路は,車の始動時に必要なもので,しかも北米の車に搭載されるものであった。つまり,厳冬時には始動状態では最悪−40℃と云うことも可能性があり,その場合,電解コンデンサの容量低下が大きく(30%以上のダウン),制御不能になる可能性が見つかったのである。すぐさま,顧客であった電装品メーカへ連絡し,処置を待ったが,結果的に数量が多くなかったことや,特殊な条件下での可能性であり,発生状況を見た上で判断するとの裁断だった。

搭載された一冬はひやひやものだったが,幸いにも不良の発生が起こらず事なきを得た。その後の数年間,こうしたクレームは一件もなかった。しかし,部品にはそれぞれ特徴,欠点があり,それらを十分踏まえて設計しているつもりでも,環境条件の思わぬ違いや,甘く見てしまうことによるトラブルは起こる可能性がある。そしてこうしたトラブルは,一度起こした本人は肝に銘じて再発はさせないのだが,周りの人間は必ずしもそうではない。組織として再発防止するためには,チェックリストを作ることや,失敗したことを素直に公表し,共有化することが重要である。

特殊な使い方には注意を!

スピーカの音色が良いとのことで,ブザーの代わりにスピーカを利用して警報機を設計したことがある。セラミックの金属音やチャイムの音色よりも良いとの顧客からの要求でそうしたのである。先方の要求の周波数に合わせた音色で承認をとった。

いろいろな信頼性試験も終え,実車試験も終えた。品質部門のレポートも合格になっていた。ところが,問題が起きたのである。ブザーの音が低温状態でおかしい音色がする,との指摘であった。調べてみると,確かに,低音状態で,ブーブーと云う音が,ブギャーブギャーと云う音色になるものがあった。低音なので恒温槽を開けたとき,湿気を吸い込んで変化するなど疑いをかけたが,そうではなかった。

いろいろ調べていくうちに,スピーカの音色を調整していく過程で,スピーカの特性の一つである最低共振周波数(f0 エフゼロ)が,こちらの要求している周波数と近似していたのである。そのため,温度変化により,f0(エフゼロ)が変化して要求周波数に接近して,このf0(エフゼロ)に引っぱられて,音色が変化したことが判明した。

スピーカを一般的に通常のスピーカとして使用する場合,f0(エフゼロ)周波数は低音域の再生限界を決定するものとして設計される。しかし,今回のように,ブザーと云う特殊な使い方をする例は殆どなかった。したがって,供給側だったスピーカ設計者も気がつかなかったのである。もちろん,このような使い方をした我々も知らなかったのである。

量産手配が終わっていたため,この失敗はスピーカの不移動品(使えない品)を作ってしまった。購買の責任者からは,「全部,買ってくれるか。家の前に積もうか」と皮肉をさんざん言われた苦い想い出がある。

他人任せの部分に弱み

ソフトウェアのバグ(不良)で,リコールに近い問題を起こしたことがある。当時,制御機器にマイコンを使い始めた頃のことである。4ビットのマイコンに制御するソフトウェアを組み込むもので,ハードウェアの部分は従来から設計していたが,ソフトウェアは主要な仕様を決めて外注に依頼していた。もちろん,投げっぱなしではなく,現場に来て貰って,システム評価を共にやっていた。

最近の設計はどうしているか判らないが,当時は制御フローチャートをもとに,あらゆるケースを紙面上で検討して,抜け漏れがないかどうかを検討した上で,システム全体で環境条件を変えて問題の検証を行っていた。と云いながらも,我々はハードウェアとシステム全体をまとめることは得意でも,ソフトウェアの部分は構成から具体設計まではソフトウェアハウスに任せていた。

問題が起こったのは,ある限定された条件下で,システムが無限ルーチンに入り込んで,抜け出せず,システムとして(車載用だった)ヒータが入り放しの状態になってしまうものだった。バッテリーが摩耗した低電圧状態で,リレーのON時間の僅かなタイミング遅れが引き金で,ソフトウェアの制御が無限ルーチンに入り込む隙を作っていたのである。ハードウェアだけの構成ならば,このような事態は起こらないのだが,ソフトウェアとの組み合わせが招いたものだった。ソフトウェアとしても明らかにバグなのだが,それを検証できなかった我々に責任があった。

でも,このちょっとしたミスがとんでもない結果だったのである。設計の責任者として自動車メーカに説明に飛んでいったが最後,不良品の取り替えが完了するまでの丸一週間,人質になってしまったのである。もちろん,自動車メーカからはこっぴどく叱られたのはもちろん,その取り替えに,工場から10数人に及ぶ人を来て貰い,しかも,自動車なのでその場に止まっているのではなく,動き回る合間を,コンピュータの車両番号を消し込みながら,一週間がかりで取り替えをした。一泊程度の出張で出かけたものだから,自動車メーカ内の生協の中で下着を買ったりしながら,後にも先にもない苦痛の一週間であった。顧客であった自動車メーカはもとより,工場側の人にも,多くの人に迷惑を掛け,こんなことは二度と起こすまい,と身に沁みた苦い想い出である。

思いこみで突っ走る

新しい部品を使う場合は,初めての経験で失敗することも多い。そのため,部品メーカの使い方を十分教わったり,注意事項を熟読して理解してから使うようにしていた。しかし,それでもやはり失敗は起こった。

それはIH調理器で,それも北米向けの大型のもの(1m×2m)で,備え付け家具同様に使われる製品だった。その調理具合の制御状態を蛍光表示管(FLD)を使って表示させる制御装置を設計した。IHの調理パワーを制御している状態を示すために,ガラスのタッチパネルの下に,蛍光表示管を備え,その下に制御回路を搭載させていた。問題は,一般調理器と違って電源のON−OFFがなく,常に電源が入った状態で,制御装置でON−OFFさせていた。

問題は,蛍光表示管の寿命が持たないことが発覚したのである。それは,蛍光表示管が表示していない状態であるにも拘わらず,蛍光表示管のヒータ部分が通電状態になっていたのである。蛍光表示管はヒータに通電された状態で,グリッドで制御されて表示がされている。したがって,全く通電していない状態と,ヒータには通電されているが,グリッドに制御電圧が掛かっていない状態では,外見上の違いが無い状態である。通常,試験では外部から電源をON−0FFするため,電源が入りっぱなしの状態での確認を怠ったのである。かつ,使用される時間は調理器具なので,多くても8時間/日はないと見積もったのである。

一旦,そう思いこんでしまうと疑うこともしない。品質部門などが実験で確認しても,そう簡単に見つかる問題ではない。結果,寿命が予測の1/3以下になり,使用上欠陥製品になる可能性があり,北米へ出荷された後であったが,リワークすることになった。

倉庫に山積みにされた製品。しかも,大きな製品のため人手だけでは簡単に開けることができず,先方の技術者の協力を得て,リフトカーを扱う人を雇い,電源を事務所から引っぱってきて,倉庫の片隅で,はんだごてを片手に修理をした想い出がある。約2週間,ロサンゼルスへ修理のために出張した。高い勉強代を払ったものである。

 

以上,数ある失敗の一例を挙げたが,後から振り返るとつまらないちょっと気をつけていたら起こらなかった失敗である。今更,改めて云うのが恥ずかしいものである。ただ,幸いにも人身事故に到るような失敗にはならなかった。でも,会社や仲間にはいろいろな形で迷惑を掛けたことになる。多かれ少なかれ,何か行動を起こすとき,誰でも失敗をする。そうした失敗が公にされることは,恥ずかしいことである。だから,人はつい隠そうとし,そのまま葬り去られてしまうことを願う。これは,素直な気持ちである。

だが,社会という大きな目で見ると,同じ失敗を繰り返すことは損失である。もちろん,会社という組織に於いても同じである。だから,失敗の記録を,個人の恥ずかしいと云う思いに閉じこめることなく,同じ失敗を繰り返さないために,いろいろな工夫がされている。私の居た会社では「品質ノウハウ集」なる失敗の事例の集大成があり,そうしたものを技術者であれば誰でも,設計する際,閲覧できるような仕組みができあがっており,私自身も大いに参考にしたものだった。また,私自身でも電子部品を扱う後輩が再発させないために,設計チェックリストを作ったり,それをさらに吟味して,設計マニュアルを作り,英文併記で関係する海外会社を含む事業場へ配布し,啓蒙したこともある。

 

設計ミスには必ず「人の心のゆるみ」がどこかにある

失敗は次の世代に同じ失敗をさせないためにも,きっちり伝達し,共有することが大切

 

[Reported by H.Nishimura 2007.06.21]


Copyright (C)200  Hitoshi Nishimura