■失敗を考える 3 (No.020)

ここでは,畑村教授の著書「失敗学のすすめ」より,要点を抜粋して,失敗について考えてみよう。

失敗に学ぶ

人が新しいものを創り出すとき,最初は失敗から始まるのは当然のことである。人は失敗から学び,さらに考えを深めていく。ところが,今の教育現場を見ると,残念なことに「失敗は成功のもと」「失敗は成功の母」と云う考え方が,殆ど採り入れられていない。失敗から学ぶ体験学習のように,自分の力で考え,失敗経験を通じた新たな道を模索する,創造力を培う演習が行われる機会が殆どない。このことが「日本人の欠点」として諸外国から指摘され,また,自らも自覚している「創造力の欠如」にそのまま結びついているのではないか。

失敗とのつきあい方如何で,その人は大きく飛躍するチャンスを掴むことができる。大切なのは,失敗の法則を理解し,失敗の要因を知り,失敗が本当に致命的なものになる前に,未然に防止する術を覚えることである。これをマスターすることが,小さな失敗経験をあらたな成長へ導く力になる。

失敗の種類と特徴

失敗の現れ方の階層性と同時に,失敗の原因にも同じような階層性がある。それが次の図である。

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ピラミッドの一番底辺にあるのは,日常繰り返されているごく小さな失敗の原因である。無知,不注意,不遵守,誤判断,検討不足などがある。中間から上に向かって存在する失敗の原因には,組織運営不良,企業経営不良,行政・政治の怠慢,社会システムの不適合,そして一番上に未知への遭遇がある。

ピラミッドの底辺は個人の責任に帰すべきものであるが,上に行けば行くほど失敗の原因は社会性を帯びてくるし,同時に失敗の規模,与える影響も大きくなる。最近頻発する事故でも,個人の責任で問題を処理してしまうケースをしばしば見かける。階層性に存在するこうした問題を理解しないことには,やはり真の原因が見えてこないのが,当に失敗の持つ特性の一つなのである。

失敗の原因を分類すると,次の10項目に大別できる。

  1. 無知    −−−世の中に既に知られているにも拘わらず,本人の不勉強
  2. 不注意  −−−十分注意していれば問題がないのに,これを怠ったため
  3. 手順の不順守−−−決められた約束事を守らなかったため
  4. 誤判断  −−−状況を正しく捉えなかったり,正しく捉えても判断を間違ったため
  5. 調査・検討の不足−−−判断する人が,当然知っているべき知識や情報を持っていなかったり,十分な検討をしないため
  6. 制約条件の変化−−−初めの制約条件が時間と共に変化したため
  7. 企画不良  −−−企画ないし,計画そのものに問題があるため
  8. 価値観不良 −−−自分ないし自分の組織の価値観が,周りと食い違っているため
  9. 組織運営不良−−−組織自体がきちんと物事をすすめる能力を有していないため
  10. 未知   −−−世の中の誰もが,その現象とそれに至る原因を知らないため

大きな失敗が発生するときは,必ず予兆となる現象が現れる。このときしっかりとしたアンテナを張り巡らして,予兆を認識し,適切な対策を打てば,大きな失敗の発生を防ぐことが可能である。一つの失敗,一つの事故の真の原因をきちんと解明することは,同じ原因で起こる次の失敗の未然防止にそのまま結びつく。

失敗こそが創造を生む

論理的に考えることは非常に重要なことである。しかし,全く新しいものを創造するときには,必ずそうとは限らない。全く新しい道筋を見つけるときには,孤立しているアイディアの種と種を結びつけ,最初はとにかく何でも良いから始点から終点まで脈絡をつけてみるのがコツである。そのため,著者は「思いつきノート」をつけて,仕事や研究に活かしていると云う。

その「思いつきノート」は次のようなものである。

1枚目:頭に浮かんだもの何でもランダムに。動機や背景もきちんと記す。

2枚目:ランダムに記したアイディアの種に,脈絡をつける作業をする。

3枚目:具体化を考えた上,個々の問題解決を行う。

4枚目:仮想演習などに使った発展を行う

創造的な仕事では,企画書や設計書が作られるが,これらは「表プラン」と総称されるが,これに対して「裏プラン」と呼ばれるものがある。これは,テーマの設定から始まって創造に至る脈絡,思考のプロセス,失敗情報などを書いたものである。こうしたものは,次の創造のヒントに役立つと同時に,第三者が学ぶことで創造に活かせる貴重なものである。

創造活動とは,頭の中にある引き出しから出したアイディアの種に脈絡をつけ,それを推敲し,ブラシアップしながらより良いものにすることを日常的に行うことである。企画や設計などを含めた創造で良い結果を導くには,こうした作業は必要不可欠なものである。どんなものでも最初から完成された完璧なものなど,できるわけがない。仮想演習などにより修正をやらずに世に出て行くものは,やはりどこか魅力に欠ける印象を受ける。

失敗を活かすシステムづくり

失敗情報を収集している企業は多いが,なかなかそれが活用されていない。多く情報を集めることよりも,使いやすいシステムにしておくことが重要である。

組織として失敗と真正面から向き合うとき,真の伝承を行うことはやはり不可欠である。作業を担当させる一部ではなく,必ずシステムの全体像を伝えるべきである。システムの中にある危険性,即ち失敗の種を全て知る上でも意味がある。

次世代を担う若者に真の伝承を行う試みが多くの企業でなされている。しかし,いくら貴重な話でも,「知りたい人」が「知りたいときに」得られないようでは効果がないのも当然である。「知りたい中身」を「欲しい形」で与えるというのも必要で,魅力のある話ができる伝承者の育成と同時に,参加者が積極的かつ継続的に参加できる真の伝承の場づくりが組織には強く求められている。

 

何か活動するとき,しかも新しいことをやるときには失敗はつきもので,失敗を恐れず果敢に挑戦しよう!!

同じ失敗を繰り返すな!!(再発防止・未然防止ができるものはいっぱいある)

 

参考図書:「失敗学のすすめ」 畑村洋太郎著 講談社 @533  2005.04

 

[Reported by H.Nishimura 2007.06.14]


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