■失敗を考える 2 (No.019) 第5話〜第8話

組織が失敗を呼ぶ

2年前に起こったJR福知山線の事故を取り上げている。これは,制限速度60Km/hであるカーブを制限速度の50Km/h以上ものスピードで電車が突っ込み,脱線し100余人もの死者を出した大事故である。畑村教授が現場の尼崎駅を訪れ,過密列車ダイヤから,1分の遅れが致命傷になる実態を知り,経済性,利便性,これを求める顧客獲得の私鉄との競争により,一番大事な安全性が見過ごされた結果だと感じる。

状況を詳細に調べると,後続の列車が間近に迫って止まっているが,これもJRではなく,踏切の非常ボタンをたまたま通りがけた主婦の機転で,さらなる大惨事を防いだことが判明した。電車には非常時,後続の列車を止める防護無線が設置されているが,これが発信されなかったのである。列車によって,その防護無線が,常用から緊急に切換えないと発信できないもので,切換えができていなかったためだそうである。こうした点,指示徹底が不足していた,組織全体の問題がクローズアップされる。

その他の失敗事例からも,組織として当然やらなければならないことが,実際現場を預かる人に十分伝達・徹底できていないとか,安全につながる重要なことを知らない人(孫請けのような形で)がやっていたとか,事故が発生すると,そうした事実が出てくる。

偽のベテランと真のベテラン

2002年4月,みずほ銀行のシステムトラブルは大きな問題になった。これは現象としてはシステム上のトラブルであったが,トップを初めとするベテランが,「真のベテラン」でなく,「偽のベテラン」だったことを暴露した。

「偽のベテラン」とは,決められたことをきっちりやること,それが正しいと信じている。条件や状況が変わったとき,どうすべきかを考え,判断することができないのである。決められたことしかできないため,状況が変化したとき「思考停止」してしまう人たちである。「真のベテラン」と云われる人は,自分の関わる物事を真に理解している。だから,状況変化にもどのように対処すべきか自分で考えて行動できる。

「畑村塾」では,自分で全部作り上げて,一人ひとりが考え,それらを全体で共有することを試みている。学生には,自分で作らせてみる。そうすると必ず失敗する。それではどうすれば失敗しないかを考える。そして克服する。そうしたことを訓練させている。畑村教授は云う,

  1. 自分の目で観察すること
  2. 自分の頭で考えること
  3. 自分の体で行動すること

こうしたことを身につけた人は,「真のベテラン」になる。

トラブル対処法

BSE問題で吉野家が牛丼の販売停止に追い込まれた。こうした異常時,どのようにするか? 畑村教授の提案は,まず最初は,いろいろな考えを思いつくまま出す「思考平面図」をつくる。これらのいくつもの項目を関連あるものを集める「括り図」にする。次に,これらがどのように関連しているかをまとめた「思考関連図」にする。このようにすると,考えていることがまとまり,「思考展開図」となって,行動に結びつく,と云う。

吉野家の場合,こうした「思考展開図」をつくって見ると,「味を記憶する」と云う,創業者も思いつかなかったことが発見された。それを実行に移されたのか,米国牛肉の再会の目処も立っていない,発売停止からちょうど1年後,1日だけ牛丼の販売を行い,多くの愛好家を集め,絶賛されたことがあった。

ノーベル賞を取られたことで有名になった「スーパーカミオカンデ」が,センサの6割が破損するという事故が起こった。このとき,そこの所長は,再開させるメッセージをすぐに発信,原因究明のため,ホームページでその内容を一般人にも見られるように公開した。そうした,素早い処置で,いろいろな方面からの協力が得られ,再開にこぎ着けた。

これには,予め,このような事故が起こったらどのようにすべきか,予め考えておいた。つまり,「仮想演習」ができていたのである。こうした事例は,失敗と自分がどのように向き合うか,考えておくことが大事であることを教えてくれる。

失敗の記録

1985年8月12日,JALの航空機が御巣鷹山に墜落した。JAL安全啓発センターには,その当時の残骸がそのまま展示されている。こうした事故は,誰でも早く忘れたい,気持ちになる。もう一方で,記憶から無くなると,同じような事故を再発させるのではないか,と云う気持ちにもなる。

事故の残骸を目の当たりに見せられると,辛い感じがする。畑村教授は,この辛い気持ちを胸に刻むこと,これ大切であるという。つまり,航空機設計者を初め,整備士など,関連する仕事に就く人は,最悪のことを考えて仕事をすることが重要と,説く。

もっと古いが,同じように三菱重工のタービン事故も,博物館に展示がある。博物館を作るに当たっては,組織内でもものすごい葛藤があったという。恥をさらす気持ちと,負の遺産にせず,成功の源にすべき気持ちがあったと云われている。しかし,現にこの博物館ができたおかげで,ここを見た人が,違う産業界でも安全を考える良い機会になっているという。

失敗の情報は,客観的でなければならない,と云う意見が多い。しかし,畑村教授は,主観的な内容が重要であるという。なぜなら,失敗は,人間の心理状態などに左右されることが多く,客観化され,形骸化された情報では,他人が気づかないことになってしまうからだという。

 

全体のまとめとして,事故,失敗が起こると,「責任の追及」と「原因の究明」が叫ばれる。これが同時に,混乱,混在しており,結果,原因の究明が十分なされないことが起こっている。これらは,分離して考えるべきもので,先ず,「原因の究明」を優先させ,それから責任を追及する方が良いのではないか。起きた失敗は,みんなの共通の財産なのである。

(続く)

 

[Reported by H.Nishimura 2007.06.07]


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