■失敗を考える 1 (No.018)  第1話〜第4話

たまたまNHKの再放送で,「だから失敗は起こる」と云う番組をやっていたので興味があり,25分間の8回の番組を見た。畑村東大名誉教授が,詳しく解説をしていた。畑村教授は,機械が専門であるが,過去のいろいろな失敗をまとめて,「失敗学のすすめ」なる著書もあり,失敗に対する研究では第一人者でもある。「失敗の方が本質が判る」,「失敗に学ぶことが大切」,「失敗をどう活かすか」,「失敗を学ぶことによって,本当の科学的知識ができる」と,畑村教授は,「失敗学」を唱えている。

ドアプロジェクト

これは六本木ヒルズにおいて,子供がドアに挟まれ死亡した事故に対して,立ち上げられたプロジェクトである。調査してみると,ヨーロッパで開発,オランダから輸入された回転ドアであるが,いろいろな要求に応えた結果が,日本で危険な回転ドアになってしまっていたことが判明した。重さが原型はアルミで軽量だったが,見栄えの良さからステンレス製になり,2倍の重さになり,それを駆動させるモーターが大きくなり,結果的に原型の3倍,2.7トンにもなっていたそうである。

これは元々は軽量で「本質安全」だったものが,要求に応じて改善(?)され,「本質安全」を忘れて,潜在危険になったものを,センサなどの「制御安全」でカバーしようとした日本の考え方による結果とされる。

失敗を繰り返さないためには,誰が悪いと責任の追及をするよりも,原因追及が先で,その本質を明らかにして,社会の財産とすることで,その失敗が活かされることが重要であると言われている。

羽越線の脱線事故

これは,特急が脱線事故を起こしたもので,報道では30m以上の突風が吹き,土手に沿って列車を吹き上げたと云われているが,畑村教授が,「現地,現物,現人(現認と思ったが人の方だった)」をしたところ,見通しの良い直線区間であり,20m幅の土手の逆側の上り線で起こったことから,吹き上げの可能性が無いことが判明した。

周辺の被害を詳しく調査してみると,被害箇所が地図上にほぼ一直線になることが判り,日本海側から直径5〜10mの竜巻が通り抜けたと推測された。これは「予測できない事故」であり,JRの対策が,防風柵の設置,風速計の設置,25m以上の風では列車を止める,等と云った対策をしているが,日本全国全てにできることではなく,対策方法としては決して良いとは云えない。

それよりも,半導体工場などが落雷予測をして対策をとっている方法などの方が,面で鉄道の安全を考える点では優れているのではないか,と指摘されている。この予測できない未知の事故に対する対応策をどう考えるか,を示してくれている。

周辺にある予測できる事故対策

我々の周りで起こる事故を紹介している。電車のドアにベビーカーが挟まれる事故,防火シャッターに子供が挟まれる事故,プールの排水溝に呑み込まれる事故など,これらの事故はいずれも予測できる事故である。

中越地震で上越新幹線が脱線事故を起こした。新幹線の安全神話が崩れると報道されたが,畑村教授は現場を見て,これは失敗を活かした成功例であると判断した。つまり,脱線事故を起こした箇所の高架橋20本が鉄板を巻かれて補強されていたために,あの大地震でも高架橋が崩れず,大惨事に至らなかったのだという。これは阪神淡路大震災で多くの高架橋が崩れたが,それを基にJRでは,危険箇所と見なされるところを優先的に補強を施していたのである。

このように失敗をしたとき,どんなことが起こったのか,なぜそれが起こったのか,と原因究明をして対策を打っておくと,失敗を予測することができ,同じ失敗を回避できるという。

失敗が伝われない事例

なかなか失敗が伝われない事例の紹介である。

津波は何十年に一度襲ってくる。発生した場所では,石碑が建てられ,その石碑には「これ以下の海辺には家を建てるな」と書かれてある。しかし,年月が経つにつれ,作業小屋程度なら,そしてやがては家を建てる。自分の生きている間には津波はこない,と信じてしまう。畑村教授は,人間の無関心さ,傲慢さであるという。

営団地下鉄のせり上がり脱線事故も同じメカニズムの事故が起こっていた。事故を起こした責任者は,関係先に全て伝えたつもりでいた。しかし,受け取る側が,自分のところには関係ないと思ってしまっていると,そのメッセージが伝わらない。つまり,欲しいと思う人にしか伝わらないのである。

六本木の回転ドアの事故はそれまでに小さな事故が32件起こっていた。33件目に死亡事故が発生した。これは労働災害で経験則から編み出されたハインリッヒの法則*にピッタリ当てはまるという。

*ハインリッヒの法則:これはアメリカの技師ハインリッヒが発表した法則で,労働災害の事例の統計を分析した結果,導き出されたものである。数字の意味は,重大災害を1とすると,軽傷の事故が29,そして無傷災害は300になるというもので,これをもとに「1件の重大災害(死亡・重傷)が発生する背景に,29件の軽傷事故と300件のヒヤリ・ハットがある。」という警告として,よく安全活動の中で出てくる言葉である。

雪印乳業の食中毒事故,三菱自動車の車輪脱落事故などは,会社の組織構造の問題を指摘されている。つまり,ヒエラルキー組織(階級組織)では,上から下への情報伝達は優れているが,下から上への伝達は良くない。トップが会社の末端で起こっていることを知らないことが明らかになっている。「見たくないものは見えない」のである。

(続く) 第5話〜第8話

失敗した想い出はいやなものです

失敗を活かすことの重要性を改めて考えさせられました

 

[Reported by H.Nishimura 2007.05.31]


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