■環境問題を考える 1 (No.015)
「不都合な真実」(ランダムハウス講談社),「環境問題はなぜウソがまかり通るのか」(洋泉社)と云う,環境問題を取り上げた対照的な二冊を読んで,環境問題について考えてみる。
◆「不都合な真実」
この本は,アメリカの元副大統領のアル・ゴア氏が環境問題に関して,映画化して訴えたことの書籍版である。写真が一杯散りばめられており,書物と云うより雑誌に近いものである。
環境問題への関心の深さ
クリントン大統領のとき,副大統領として,情報スーパーハイウェイ構想を打ち出し,その手腕を見せつけられたが,環境問題にこれだけ関心が深かったとはこの書物で初めて知った。
1948年生まれで,私とは殆ど同年代である(厳密には,私の方が一年先輩になる)。その彼が,環境問題に関心を寄せたのは大学生時代で,ロジャー・レヴェル教授の地球の二酸化炭素の測定を,ハワイ本島のマウナロア山の上空で初め,それが徐々に上昇を続けていることを示された時だという。1958年から始められたデータは現在も続いており,約50年間,上昇の一途を辿っているグラフが示されている。
日本では公害対策から環境庁ができたのが1971年(昭和46年)7月である。その後,1973年から1990年までは6月5日〜11日までが「環境週間」,そして1991年から6月を環境月間と制定したのである。私自身が,「環境」と云うことを薄っすら意識したのが,「環境週間」が始まった頃である。私自身との比較は問題にはならないが,日本人が「公害問題」から「環境問題」との意識に変わって行ったのは,ゴアが環境問題に関心を寄せた時から,数年後になる。
写真で訴えるインパクトの強さ
「百聞は一見にしかず」とは,よく云ったもので,写真でその状況を具に見せられると,思わず納得してしまう。続いて,見せつけられるのが,世界中の山岳氷河の溶けつつある状態である。50年〜100年の違いの氷河の状態を次々見せてくれる。温暖化をまざまざと,目に焼き付ける。
世界各地で起こっている異常気象についても,写真で生々しく見せてくれる。大型ハリケーンが何度も襲来した様子も,まざまざと見せつけている。「温暖化によってハリケーンはより強力に,より破壊的になっている」と云う科学的な共通認識を裏付ける主要な研究が,MITから出されていると云う。
北極の氷が溶け始め,ホッキョクグマが溺れ死んでいると云う。氷盤から氷盤まで泳ぐのに,50〜65Kmもあるという。地球が2〜3℃上昇すると云うことは,実際,赤道上では0.5〜1℃しか上がらず,その代わり北極では7℃も上昇するという。こうして北極の氷が溶けると,地球全体の気候パターン全体が根本的に変わってしまうと云う事態が起こるという。
テレビで時々放映される南太平洋に浮かぶ海抜が1mそこそこの国,ツバルが海水に沈む様子があるが,この本ではそれだけでなく,地球の地図を塗り替えるほどの変化が生じると警告している。グリーンランドや南極大陸の氷が溶けると,世界中の海水面は5.5〜6m上昇し,それによって,フロリダ,サンフランシスコ湾,オランダ,北京,上海周辺,インドのカルカッタ,バングラディッシュなどの一部が海に沈む地図が示されている。
このように,我々に迫りつつある真実を次から次へと,写真で生々しく見せ,我々に環境問題の怖さを知らせてくれる。
季節のズレが疑問を呼ぶ
一方で,疑問が無いわけではない。特に,温暖化を強調した氷河の変化のしようは,明らかに温暖化により氷河が解けたり,或いは雪で覆われていた状態が数十年後に草原に変わってしまっているが,四季を身近に感じている我々にとっては,季節がどうなのか,と聞きたくなる。残念ながら,撮られた日付が入っていない。冬に撮った光景と,夏に撮った光景と見れば,日本では当たり前の風景で,温暖化でも何でもない。季節の違いでしかない。そんな思いを感じさせられる,比較風景がある。同じ訴えるならこうした配慮ができていないのは,些か疑問が残る。四季の変化を見慣れた日本人には,温暖化による真実とは信じられない感覚になっても仕方ない。
真実は一つであり,我々は一方的な見方(間違いではないが,誇張されて演出されている部分は必ずある)に単に迎合するのではなく,技術者として,正しい真実を見極める目を持たなければならない。そのためには,幅広くいろいろな見方を知ることが大切である。
ブッシュ政権批判
ブッシュ大統領と大統領選で接戦を演じたこともあるせいか,最後にはブッシュ政権の批判が書かれている。つまり,地球の温暖化に関する環境問題で,科学者が一致している真実をブッシュ政権は無視して,地球の将来を脅かしていると,はっきり述べている。ブッシュ政権は,環境問題も経済活動とのバランスが重要であると,主張する。京都議定書に対する不参加などを見ると,明らかに,環境よりも経済を優先しているとしか,私には見えないが。チェイニー副大統領をはじめとする側近の行動は,経済優先としか映らないのは私だけではないだろう。
最後に,環境危機に対して私たちにできることとして,次のようなことがまとめられている。簡単な内容ではあるが,それを実行することはなかなか容易ではない。特に,目立つことではなく,一つひとつの積み重ねだから,それだけに余計に難しい。
- 自宅の省エネを進めよう
- 移動時の排出量を減らそう
- 消費量を減らし,もっと節約しよう
- 変化の促進役になろう
とにかく,環境問題について考えさせられる一冊であることには違いない。この本をどのように受け止めるかは,各人の考えに任せるとしても,是非,読むなり,映画を見るなりしても良いと思われる。
(続く)
「地球のためにあなたができる最初の一歩は,この事実を知ることだ」(書籍のカバーより)
[Reported by H.Nishimura 2007.05.10]
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