■「フラット化する世界」 4 (No.013)
次は,ネットワーク上で実際に活用されている代表例について述べる。
グーグル
グーグルについても,フラット化の一つの要因に挙げられているが,これについても述べておこう。グーグルについては,いろいろな書籍が出ているので,読まれた方も多いだろうし,ここでグーグルの詳細を述べても仕方ないだろう。著者は「知りたいことはグーグルに聞け」と云っている。また,最近は一般的にオンライン検索のことを,「グーグルする」とも呼ばれている。
グーグルは,スタンフォード大学院の二人の学生(ラリー・ペイジとサーゲイ・ブリン)によって,検索エンジンを主体にして会社が作られたが,今では,ウィンテル連合(マイクロソフトとインテル)がパソコンを支配している(こちら側)のに置き換わって,ネット上に巨大な宝庫を作って(あちら側),それで支配をしてしまおうと云うような前兆が見られるのである。そう言っても,パソコンやネットワークに詳しくない人には,「ああそうか・・」位でしかないかも知れないが,このことは非常に大きなもの,革命にも相当することになるかも知れないのである。
著者は,検索が容易で且つ正確になるに連れて,グーグル・ユーザの基盤がよりグローバルになり,フラット化要素が益々強まることを述べているに止まっているが,そんなものではないと感じている。パソコンの出始めがそうであったように,通常一般の人には,マニアが使うもので一般化するのは,まだまだ先のこと。否,仕事では使われても,一般家庭で使われることなどないのでは,と思っていた。ところが,インターネットの普及が,ものの見事にそれらを覆して,一般家庭の必需品にさえなりつつある。これと同じ現象が,この先10年もしないうちに,グーグルを利用していない人はいない。仕事も,一般生活もグーグルで済ませることができる時代の到来を予感させる。
つまり,ネット上ですべてのことができてしまう時代である。テレビ,映画,読書に始まり,調べ物はすべてネット上の検索で,もちろん,各種の予約,使いたいソフトウェアもネット上からダウンロードして必要に応じて使う。パソコンは,自分の私書箱,保管庫としての一時保管のメモリーだけで,ネット上に全てがあるので,それで全てのことが足りてしまう。携帯電話の進化したものが端末として個人持ちになるかも知れない。ある意味,フラット化した世界の次の世界かも知れない。
「ディスクトップ・サーチ」とは? (これは役立つ!!)
グーグルを語るとき,これは是非紹介しておきたいものがある。パソコンの新しい使い方として,「グーグル・ディスクトップ・サーチ」と云うモノがある。同じモノが,マイクロソフトなどからも出ている。これはパソコンを使って仕事をしている人には貴重なツールで,非常に役立つ。グーグルのホームページから,ダウンロードして(無償ダウンロードできる)パソコンにインストールするだけで,すぐに使えるものである。インターネット検索と同じように,パソコンの中の情報をエンジンが検索し,必要とする情報を瞬時に選び出してくれるものである。
これまでは,自分で作ったファイルや他人から送られてきたファイルなどを整理するには,ファイルの名前などで,情報がどこに収納されているかをフォルダーを分けたり,人それぞれのやり方で工夫してきている。かなりの部分はこれで判るのだが,○○に関連したものを探すとか,キーワードだけは判っているが,どのファイルに入れたのか忘れてしまった,或いは,この文献に関することを調べ直したい,などいろいろなモノ探しの場合に出くわす。これまでは記憶に辿った探し方しかできなかったが,この「グーグル・ディスクトップ・サーチ」は,関連するキーワードを入力するだけで,一瞬にして,新しいモノ順など順序付けて,しかも簡単なサマリーまでつけてどこのどのファイルにあるかを教えてくれる。
この機能は,パソコンにいろいろなデータを容れている者にとっては重宝なものである。モノ探しの時間が圧倒的に短くなったし,また,探し出すのは到底無理だと諦めていたものが,この検索を使うことでできるようになった。画像データは今のところ無理だが,テキストデータ(テキストファイルではなく,一般のWORD,エクセル,HTML,メールなど)は,確実に検索してくれる。一度使うと止められない代物である。未だこの存在を知っている人の方が少ないようである。
ただし,これも危険性は無きにしもあらず,である。パソコン内の情報が一気に判るからである。この検索データを悪用すれば,ウィニーのような騒ぎにも発展しかねない。今のところ,パソコン内で収まっている。
ウィキペディア(Wikipedia)
ネットワーク上にアップローディングが自由にできるようになり,コミュニティが作られるようになってきている。その代表事例の一つが,オンライン百科事典のウィキペディアである。
これはインターネットの世界で使われている百科事典で,自由に書き込みができる事典である。これまでは,何か調べ物をするとき,百科事典を調べると云ったことをやったが,そうした百科事典は権威ある著者が集まって書かれたものであったが,このウィキペディア(フリー百科事典)は,著者はインターネットにつながった万人である。
権威のない人が集まって何ができるんだ,編集も自由な運動なのに,どうして信頼のおける百科事典ができるのか? と云う議論はあるが,この事典の精度と云うか間違いは殆どないようである。もちろん間違いは皆無ではないが,気づいた人が修正を加えられる仕組みになっているために,敢えて間違いを挿入しても,たちまちの内に修正が加えられ正しくなっているという。また,IBMでは,ウィキペディアを監視して自社についての記述がすべて正しいことを確認するスタッフまで置いている,と云う。自社のホームページからの情報でなく,ウィキペディアから情報を得ようとする若者が増えてきているからである。
百科事典の信頼性が問題になるのだが,従来の感覚の「権威者が書いた間違いのないモノ」と考えている人にとっては,こんなものは偽物で役立たない代物であると,中傷誹謗する。しかし,不特定多数の知の集約であり,オープン・ソースの代物としてはなかなか良くできており,そこそこ使い物になると考える人もいる。インターネットに慣れ親しんでくるとこうしたものの方が,利便性が良く,自然と広まっていき,だんだん無くてはならない存在になっていくのではないか。
著者は,こうした個人もしくはコミュニティによるアップローディングは,フラット化の要因であると述べている。
アマゾン
ネットワークを使ったオンラインショッピングで,特に書籍について,個人の書評が書き込めるようになっていて,殆ど不可能なものはないくらい,この中で見つけ出すことができるようになっている。一般書店では売り場に限りがあるから,できるだけ売れ筋の書籍を置いて売上げを稼ごうとしている。つまり,最新の本を中心に揃えられている。しかし,このアマゾンは,売り場面積に制限がない。だから,ロングテールと云われるような売れるかどうか判らないような本まで検索できるようになっている。
おもしろいことに,ロングテールの部分での売上げが結構伸びているのである。(アマゾンのロングテール部分の販売が全販売額の36%に相当との報告もある) 私自身,この「フラット化する世界 上・下」を本屋で探したが,見つからなかったので,アマゾンで注文したところ,翌日に無料で配達されてきた。以来,1カ月になるが何度か本屋に顔を出したが,この本はもうどの本屋にも並んでいない。
このようなショッピングのあり方は,いろいろなところへ波及しているだろう。現在存在するCD,DVDなどのレンタル業,或いは通信販売など,ちょっと見渡すだけでも,変わっていきそうな業種がある。アマゾンが成功したから,全て上手く行くとは限らないが,ネット上での新たな形態が,次から次へと現れ,やがて我々の生活に深く浸透してしまうだろう。遠くに霞んでいた,或いは到底及ばないと思っていた世界が容易に自分の手が届く範囲に入ってしまっていると云う,著者の云う「フラット化する世界」を,楽しみ,活用して行こうではないか。
以上,ネットワーク上で代表する事例の一部を示したが,この世界は我々が想像する以上の拡がりを持ち,且つスピーディに進んでいる。今日では,考えられなかったことが,翌年には一般化してしまっている事例がある。著者の云う,「フラット化する世界」の次の世界が見え隠れする気がしてならない。
(続く)
貴方は,ネットワーク社会に溶け込んでいますか?
時代の変化のスピードに対応できていますか?
[Reported by H.Nishimura 2007.04.26]
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