■「フラット化する世界」 3 (No.012)

新しいソフトウェア

次に挙げられているのが「共同作業を可能にした新しいソフトウェア」である。

壁が崩壊し,パソコンのWindowsが使いやすい環境を提供し,インターネットによりあらゆる情報が閲覧できるようになり,電子メールをやりとりするようになると,それだけでは満足できなくなってきた。つまり,情報の交換を,どこからどこへでも,どのコンピュータからどのコンピュータにでも,ムラなくできるようにしたいと考えるようになった。

そこで考えられたのが,次のようなソフトウェアである。

SMTP:(単純メール転送プロトコル)種類の違うコンピュータ同士でも,電子メールのやりとりができる

HTML:(ハイパーテキストで情報発信する)どんなコンピュータでも,ドキュメントやデータを作成し,送信し,読めるようにした言語

HTTP:(HTMLをやりとりするプロトコル)インターネットでコンテンツをやりとりする通信方法

TCP/IP:(送信制御プロトコル/インターネットプロトコル) インターネットで使われている基本的な通信方法

XML:(拡張可能なマーク付け言語)文書やデータの意味や構造を記述するためのマークアップ言語の一つ

SOAP:XMLとHTTPなどをベースとした,他のコンピュータにあるデータやサービスを呼び出すためのプロトコル

こうしたソフトウェアが作られ,スタンダードとして使われ出すと,人々は次にはそれでできることの品質を高めようとした。日常,インターネット上でお世話になっているソフトウェアであるが,詳細な内容を知らなくても,十分使いこなせるようにできあがっている。以前のコンピュータでは考えられないことである。ハードウェアに合わせたソフトウェアが個別に必要だった時代とは雲泥の差である。こうしたソフトウェアによって,共同作業のための全く新しいグローバル・プラットフォームができあがった。こうした世界のフラット化の創世記は,1990年代半ばから末にかけておおざっぱな基礎ができあがったのである。

再び私事になるが,日本でもインターネットの普及が加速してくると,だんだん自分でホームページを作って楽しむ人も出てきたのである。私が会社のイントラネットで全社技術部門のホームページ作ったのは1999年である。当時,情報システムなどコンピュータを専門に仕事をしている連中が,興味本位にホームページを立ち上げ始めていた。彼らはシステムの専門家であるので,ホームページをどのように作るかについては,一歩リードされていた。しかし,コンテンツについては,珍しさが先行しており,まだまだプアな状態のものが殆どだった。

技術部門の中枢として,技術者として負けられない思いも半分あり,中身を充実させた,技術の情報発信基地としてのコンテンツを揃えたものを作りたい一心で,HTMLをかじりながら,ホームページ作成のソフトウェアを頼りに情報の発信を開始した。思いとは裏腹に,コンテンツの充実はそう簡単なものではなかった。ただ,技術者が共通で関係する技術管理,技術情報などを掲載させた。研究部門の内容も紹介するコーナーを設けたが,これは全社に情報公開するわけには行かず,パスワードを設定して,限定公開とした。もちろん,サーバーの管理は情報システム部門だったので,そこの協力を得たが,コンテンツはオリジナルに独創性を凝らした。

にもかかわらず,ホームページの公開に対するアクセスは期待通りには進まなかった。コンテンツが不十分だった,と云えばそれまでだが,現在の状況とは違って,その当時,情報をイントラネットで得ると云う風土・文化は全くなく,珍しがり屋が自分勝手なホームページを作っているとしか思われなかったようである。内容を振り返ってみると,今でも十分活用できるものであるが,タイミングが早すぎたのである。ホームページの掲載期間は,職場を変わったこともあって,数ヶ月で終えた。

職場を変わった部署が,パソコンも共通するパソコンが5,6人に1台の割合で,個人所有のパソコンが持ち込まれていた状態だった。しかし,情報システムが管理していたデータアクセス件数や,通信データ量などから,その部署が時代遅れも甚だしいことを訴え,好景気だった時代背景もあって,一気にパソコンが個人に1台になる環境が作られた。もちろん,その部署のホームページを作成し,情報共有の重要さを訴えたことは当然である。事業部のホームページとしては,それでも早かった方であった。遅い早いよりも,コンテンツがどれだけ充実しているかの方に関心があったことは云うまでもない。以来,定年まで,ずっとそのホームページを管理運営していた。もちろん,定年の時期が決まっていたので,後輩に維持管理をお願いして退職した。

話は戻るが,これらの共同作業を可能にしたソフトウェアは次々進化しており,ビジネスで必須のツールになっている。その結果が,フラット化する世界の要因に挙げられる,アップローディング(コミュニティの力を利用する),アウトソーシング(Y2Kとインドの目覚め),オフショアリング(中国のWTO加盟),サプライチェーン(ウォルマートはなぜ強いのか),インソーシング(UPSの新しいビジネス)などを生み出しているのである。著者が述べているように,最初の三つがフラット化には大きな要因になっていることには間違いない。

(続く)

フラット化する世界のど真ん中にいる諸君,新しいソフトウェアを活用していますか?

次世代を見据えて活動できていますか?

 

[Reported by H.Nishimura 2007.04.19]


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