■「フラット化する世界」 1 (No.010)
今頃になって,「フラット化する世界(上・下)」(トーマス・フリードマン著 日本経済新聞社)を読んだ。発刊されて約1年になろうとしている。前々から,気になっていた書籍であったが,つい読む機会を後回しにしてしまっていた。と云うのは,殆ど同じタイミングで発刊されたアルビン・トフラーの「富の未来(上・下)」があり,どちらを先にと考え,「第三の波」「パワーシフト」などでなじみがあったので,トフラーの方を先に読むことにしてしまい,読むタイミングを失いかけていたところだった。
つい先日,NHKで「インドの衝撃」と云う番組(3夜連続1/28,29,30日)があった。見られた方も多いのではなかったかのではないだろうか。BRICsの台頭が話題になっているが,インドについてはカースト制が強く,貧富の差が激しい。ところが,一部に優秀な人がおり,アメリカでもソフトウェアなどで力を発揮しており,インド国内にもシリコンバレーに匹敵するようなところができつつあることを見聞きしていた程度だった。だから,インドについて生々しい映像を見たのは初めてで,驚かされる部分が多かった。特に,ITT(インド工科大学)などの内容は初めて知り,非常に興味深かった。
*BRICs(ブリックス)とは経済発展が著しいブラジル(Brazil),ロシア(Russia),インド(India),中国(China)の頭文字を合わせた4ヶ国の総称。本来BRICsのsは複数形を表すが,BRICSとしてSが南アフリカ(South Africa)を表す場合もある。
NHK番組のインドの凄まじい変化を見て,この本が書かれる契機となった舞台であったことも知っていたので,是非読みたいと思ったのである。。読みたいと思って早速近くの書店を回って見たが,本が見つからない。つい最近までは,店頭に山積みにされていたのにと思いつつ,探し歩くのも面倒なので,アマゾンでベストセラーで調べると,やはりビジネス書としては25位前後のランクには入っており,カスタマーレビューも40件近くあり,最近でも書かれ続けている。気がせいていたので,アマゾンで申し込むとその翌日配送されてきた。すぐ,上下2巻を読破したばかりである。
読んでみた第一の感想は,「フラット化」と云う表現で実に判りやすく書かれているが,自分が見聞きし,或いは実際に経験した内容に近く,非常に親近感を持ったことである。また,内容がパソコン,インターネット関連に関することから言及している部分も多く,この部分も私が興味ある部分だったし,感じ方は異なる部分もあったが,自然にその世界に引き込まれていった,というのが素直なところである。ピュリツアー賞を3回も受賞したと云う著者であり,世界のグローバル化をフラット化と云う独自の切り口で説く内容には共感するところが多かった。最初の部分に述べられているように,インドのバンガロールを訪れ,ジャーナリストとして気づかない間に,大きな変化が生じていたことを発見し,世界がフラット化された過程を描いてみようと思ったそうである。
詳細な内容を紹介する前に,著者が衝撃を受けたとされるインドのIT企業のインフォシスが,365日,無休,24時間態勢,と云う営業時間を紹介されているが,少しニュアンスは異なるが,全くの無休で24時間仕事をし続けること(単なる徹夜ではなく)を20年以上も前に,経験したことを想い出した。
と云うのは,当時アメリカのGE社向けに電子部品の開発の仕事をしており,その開発途上で問題点が発覚し,急遽米国へ出張したときのことである。当時,電子レンジの制御回路を米国ケンタッキー州ルイビルにあるホーム家電部門が集まっている電子レンジの事業部門へ納めるために開発していた。ソフトウエアの問題点を解決するために訪問したが,なかなか上手く行かず日本側に居る技術者とやりとりをしながら改善をしようとしていた。インターネットも電子メールもない時代である。連絡方法は,電話とテレックスだった。ルイビルとは時差が14時間あり昼夜が逆で,出張先でGE社と打ち合わせた内容をまとめて夕方,米国から日本に向けてテレックスを打って検討を依頼しておくと,翌朝にはその検討内容がテレックスで返されている状態で,それを見ながら,翌朝からGE社と検討に入る。その結果を,また夕刻日本へ報告する。するとまた,翌朝には日本側で検討した内容が送られてくる。
20年以上も前に,既に一時的ではあるが,設計業務を日米で24時間稼働させていたのである。そのとき感じたのは,こういうやり方をすればスピードは確実に上がり,効率アップにつながるなあ,と云ったものだった。GE社の人々は日本人の働き方についてもよく知っており,必要とあれば土日を出勤してでもやり遂げる人種であると言っていたのを聞いたことがある。結果的には問題解決のスピードが休む時間なくスピード解決できた事実があった。その当時は,今日のように,インターネットや電子メールが普及するとは全く考えていなかったし,訪米することさえ珍しい時代で(実際に,空港まで職場の仲間や家族が見送るのが通常だった。電話は交換手を通してやりとりしなければならず,まごまごしていると怒られることもあった時代である。),昨今のように,誰が,いつ,どこの国へ行っているかが日常茶飯事に行われている状態ではなかった。ただ,その当時は24時間フル回転して,日米で設計業務を廻しスピードアップした経験はしたが,まさか日常的に24時間稼働する世界が来ようとは思ってもいなかった。TV番組を見,本を読み出しながら,ふと,以上のことが脳裏によみがえった。
(続く)
インドの台頭をどれだけ知っていますか?
中国とインド,あなたはどちらが先に先進国の仲間入りすると思いますか?
[Reported by H.Nishimura 2007.04.05]
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