■製品安全について 2(No.008)

どこまでが製造側の責任か?

よく言われている言葉に「再発防止」と云うのがある。同じ失敗を繰り返さないようにすることである。そのために,製造側ではいろいろな検討がなされている。例えば,大きな事故が発生したその現物を遺して,次世代に同じ失敗をしないために,現物を目の辺りにさせることで,その事故を正しく伝えようとするものである。或いはまた,過去の失敗の記録を整理して,チェックリストのような形にして,必ず新製品の開発の過程でチェックすることを義務づけている方法もある。

製造側にとって,全く予測もできなかった事故ならばともかく,過去に起こった事故を再発させることは絶対に避けなければいけない。誰しもそうは思っているが,同じ人が繰り返すのは論外で,意外と社内での伝達が悪かったり,悪いことは隠そうという隠蔽体質があったりして,再発が起こるのは,社内の仕組みに問題があることが多い。また,安全に対する社内の風土的なものも大きく影響を及ぼすことがある。事故が起こって,いろいろマスコミなどに取り上げられるが,そこに見えるのは企業体質のようなことが多い。これは,その中に居る人にはなかなか気がつかないことが多いのである。

経験上から云うと,安全に対してはかなり気を遣い,十分な対策をしてきたつもりでいたが,リコールに近い事故を発生させたことがある。それは,製品開発過程で,我々技術者が確認することはもちろん,品質部門や関係部門がいろいろな目でチェックをしていた。もちろん,電子部品側だけでなく,それを採用した自動車メーカでも十分なチェックをされ,それもパスしていた。そうした関門を全てクリアして出荷された製品でも,市場に出て問題が発生したことがある。

20年近く前のことであるが,ソフトのバグ(ソフトの誤り)が原因だった。組み込み型の1チップのマイコンを搭載しており,ハード部分(電子部品での機能設計)とソフト部分(マイコン制御)の組み合わせで,システムができあがっていたが,極めて希な条件,通常ではなかなか再現が難しい条件において,マイコンが無限ルーチン(制御が効かない状態)に入ってしまい,安全に問題があることが発覚した。

自動車メーカとの再現実験などを繰り返し,結果的に原因がソフトのバグと判明し,結果的には全数取り替えに自動車メーカ内を走り回り,毎日10数人の人間で1週間程度かかった苦い想い出がある。通常,パソコンなどでは,ソフトのバグが判明すると,対策ソフトをインストールすることで済まされるが,制御機器ではそういうわけにはいかない。もちろん,プログラムの量が桁が違うと云えばそれまでだが,ハードとソフトの組み合わせでの問題は私が知っているだけでも,膨大な数である。製造側がどれだけ検討しても,市場に出て初めて起こる問題と云うのは問題が大きいか,小さいかの違いはあるけれど,必ずある。

起こるかも知れない事故は,極力,社内の全知全能を使って未然防止をしなければいけないことは当然だが,そうかといってそれを恐れているようでは,何も新しい物は創れないと云うことになってしまう。私の経験からすれば,随分冒険的なことにもチャレンジした。しかし,そうしたチャレンジがなければ,進展はしないことも事実である。安全に対する予防策をどれだけ講じたか,また,事故が起こった際の対応の仕方が製造側として十分だったかどうか。そうしたことが問われるのである。それでも責任は製造側にあることが多い。しかし,技術者自身が安全に対する基本的な考え方をしっかり持っていさえすれば,道は拓かれるはずである。

電子部品の安全ガイドライン

10年前,PL法(製造物責任法)が施行される(1995年7月施行)に当たって,電子部品業界として,安全確保を目指した活動をしたことがある(当時のEIAJ 日本電子機械工業会。現在はJEITA)。日本では初めてであり,米国でのPL法の事例などを参考にしながら,部品業界としてどのように取り組むべきか検討した。

そこで最も重視したのは,安全に対する基本的な考え方である。その一文を紹介する。

電子部品は使われる機器及びその使用環境によって大変広範囲に使用されている。したがって,消費者に対する安全性の確保はあらゆる角度から行わなければならない。そのために,先ず第一には,機器及び部品の設計者がお互いに安全に関する技術情報を提供し合い,知恵を出し合って協調して安全な機器の設計を目指さなければならない。第二には,機器及び部品の設計者双方で部品に関する仕様の取り決めをし,お互いの責任分担を明確にした仕様書,図面に基づいて設計しなければならない。また,当然のこととして,関連する安全規格などを遵守することは重要である。

ところで汎用として用いられる電子部品は,AV・家電・事務機器・情報通信機器など電子・電気機器用として設計・製造した物が多く,それ以外の用途及び高度な安全性や信頼性を要求される機器に用いられる場合には,特別な配慮が必要なことがある。このような場合には,カスタム品同様,部品の使用者は部品メーカへその適合性を十分確認の上,安全な機器設計をする必要がある。

また,部品の故障モードを配慮した設計をすることが重要である。

以下に,機器及び部品の設計者が安全性を確保するための主なポイントを列挙する。

  1. 部品自身の安全設計:部品自身の欠陥による事故の回避。ただし,部品だけの安全確保では限界あり。
  2. 機器の安全設計 : 部品は使い方で安全性にも差あり。部品単品故障に対する安全設計手法を確実に。
  3. インタフェースの安全設計:製品としての安全確保の責任は機器側。部品側でもできる限りチェックを。
  4. 故障モードを配慮した安全設計:部品メーカは壊れ方を提示。特にライフエンドには十分検討を。

この考え方を基調に,1995年12月に「電子部品の安全ガイドライン」として発行。1999年9月に「電子部品の安全アプリケーションガイド」(EIAJ RCR−1001)として制定され,2006年度にその見直しが行われている。

ここでの安全の基本的な考え方は,電子部品は直接消費者にわたり,使用されるケースは極めて希で,機器の設計者が取り扱うことを前提としており,部品側,機器側のそれぞれ単独での安全確保は,無闇なコストアップを招くばかりでなく,正しい形の安全確保が難しく,こと安全に関しての関係者の協調が重要であることを云っている。幸いにも,この精神は多くの機器,部品メーカの賛同も得られ,これまで大きなPL事故には至っていない。

(続く)

安全は仕組みで作られる部分も大きいが,技術者の基本的な考え方で左右される部分もある

 

 

[Reported by H.Nishimura 2007.03.22]


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