■改革(組織改革,意識改革)が叫ばれているが,上手く進まない(No.005)
改革は流行?21世紀に入って,市場の変化は激しく,大企業でも倒産の憂き目に合う可能性は珍しくなくなってきた。企業は,こぞって「改革」と云う言葉を使って,現状から変わろうとしている。しかし,本当に改革ができたところは少ない。一見,改革ができたようであっても,それがたまたま市場の景気に引っ張られて収益が回復しているだけのケースも見られる。本や雑誌などマスコミを賑わしているほど,「改革」は進んでいない,と云うのが,企業の中にいた者の実感である。
それでは,なぜ,「改革」が上手く進まないのか? つい最近,定年退職寸前まで,改革のファシリテータをやっていた経験からは,次のような点が,改革を進めることに対する反対意見,或いは,改革推進者に成り得ないポイントであると感じている。
- 自己否定ができない
- 総論賛成,各論反対
- このままでもなんとかなる気持ちが残っている
- トップが本気で考えていない
- 言いだしっぺになる可能性が高い
- 改革に時間が掛かる(効果がなかなか出ない)
- 改革のやり方が判っていない
これは私自身の実感であるが,先人の知恵を見ると,もっといろいろな,且つ幅広い要因が見えてくる。ここでは,ジョン・P・コッターの著書「企業変革力」(2002.04 日経BP社発行)を紹介しよう。この本の原稿は,1995年に発表されたハーバード・ビジネス・レビュー誌に「変革を推進する−−なぜ変革の試みは成功しないのか」と云う論文に基づいている。
この書物は,企業の改革が上手く成功しなかった8つの事例を挙げ,それに対する対策案として,改革を成功に導く8段階のプロセスを紹介している。これらは,どの企業でも起こっている「改革をやりかけたがなかなか思い通りに進まなくて悩んでいる」ことに対して,大きな示唆をしており,改革を推進しようとする人は少なくとも学んでおいてから行動を起こした方が良いと思われる。
その8段階のプロセスとは,次のものである。
- 危機意識を高める
- 変革のための連帯チームを築く
- ビジョンと戦略を生み出す
- 変革のためのビジョンを周知徹底する
- 従業員の自発を促す
- 短期的成果を実現する
- 成果を活かして,さらなる変革を推進する
- 新しい方法を企業文化に定着させる
これらについては,別の機会に詳細に触れたいと思うが,これらをみて,「何だこんなことか,そのくらいのことは十分承知してやっている」と感じる人は,本人は改革を進めてきているつもりでも,まだ,本当の改革を十分理解できていないのではないか。「なるほど,実感としてよく判る」と感じた人は,少しは改革に触れている人ではないだろうか。
一番目の,「危機意識を高める」をとってみても,多分殆どの人は,当然改革には必要であり,基本中の基本ではないか,と感じるのではないか。ところが,現実の実態に触れてみると,会社のトップから,経営状態の生の声を知らされることで,トップ初め会社幹部は,これで従業員の間にも,危機意識が芽生えるだろうと感じている。ところが,それを聞いた従業員は,「会社のトップ初め,経営幹部がしっかりしていないから,こんな経営状態に陥ったのだ。経営幹部の責任だ。」と思う人も多い。「大変な状態だから,自分たちもしっかりしなければ」と感じる人はむしろ少数である。
もちろん,その言い方,ニュアンスによって変わるが,一般的には従業員は,安定して働きたいのである。それができないような状態になると知らされると,先ずは「危機感」が芽生えるのではなく,「不安感」が募るのである。それを,危機感を持ってもらえた,と解釈するのは間違いである。不安感を募らせたに過ぎないのである。これを危機感に変えるには,もう一工夫が必要である。それとも知らず,「うちの従業員は危機感を持っている」と公言している経営幹部によくお目に掛かる。経営者には「危機感」でも,従業員には「不安感」でしかないことを肝に銘じるべきである。
この「不安感」を「危機感」に変えるには,経営幹部は,今の経営状態から脱するためには,このような施策でもって,将来このような姿にしていきたい,と目指す姿へのシナリオをきっちり示すべきである。将来の姿が,見えない状態では「不安感」は拭えない。しかも,口先だけでなく,それを率先実行することである。実行が伴わない口先だけの説明は,すぐに見抜かれてしまう。
もちろん,従業員の方も,経営幹部へ責任を押しつけるだけでは,溺れかけた船内で騒いでいるだけの人に過ぎない。そうではなく,示された将来のシナリオに対して,自分の役割は何かと自分自身で考えることである。こうした「行動につながること」が本当の危機感を持っていると云えるのである。
改革は進んでいますか?
『この世に生き残る生物は,最も強いものではなく,最も知性の高いものでもなく,最も変化に対応できるものである』(ダーウィン)
[Reported by H.Nishimura 2007.03.01]
Copyright (C)2007 Hitoshi Nishimura