■新製品開発など技術活動が思い通りに進まない(No.003)
新製品開発が順調に進まないことは,技術者にとっても,その組織責任者にとっても一番悩ましい問題である。多くの人がいろいろな角度からこの問題に取り組み,プロジェクトマネジメントとしてまとめられているものもある。ここでは,実際の現場の経験から,まとめてみることにする。
1.新製品開発が進まない理由
新製品開発がなかなか思い通りに進まないことで悩んでいる技術責任者は多い。いろいろな要因があるのだが,その責任は一手に技術責任者に集中するのだからたまったものではない。しかし,新製品開発がうまく行かないことは,事業の存亡にも関わる問題であり,いい加減にしておくわけには行かない。
新製品開発がうまく進まないことには,様々な理由があり,一言で説明はできない。一方,現場ではこうした問題については,いろいろな場面で検討が繰り返されてきている。しかし,いろいろな原因が抽出され,対策がなされるが,新製品が完璧な形で生み出されることは殆どない,と言ってよい。それほど難しいものである。
ここでは,いろいろな原因を詳細に説明するのではなく,抽出された原因を大括りにしてまとめたものを紹介することにする。
新製品開発がうまく進まないことは,結果として新製品を上市することが遅れることや,顧客要望から遅れることである。これを角度を変えて見ると,@顧客要望(顧客ニーズ)から遅れていることと,A自分が立てた計画から遅れていることがある。技術者にとっては,いずれも痛手ではあるが,それらに対する対応策は違ってくるので,分離して考えた方がよいと思われる。
@顧客要望からの遅れ
- スタートの遅れ
- 変化対応の遅れ
- 競合他社のスピードとの遅れ
- 技術ハードルの高さ
A初期計画からの遅れ
- マネジメント不足
- リソースが不十分
- 技術ハードルの高さ
- 仕組みの拙さ
- 風土・文化に根付いたもの
まとめると何だこれだけのことか,と思われるかもしれないが,その内容は数人でざっと挙げただけでも数十に及ぶものである。これらについては,書き尽くせないほどいろいろなものがあるが,具体的な内容を示すことで実感してもらえるものがあると思われる。そうした具体的な内容は,この「技術よもやま話」を通じて,或いは場面を新たにして順次説明することにしたい。
2.技術活動の実態
技術者は新製品開発や設計など技術本来の役割にどれほど時間を費やしているのだろうか?これについても,非常に興味のある問題であり,調査しようとした人も多いのではないだろうか。調査した結果,予想以上に少ない時間しか掛けていない実態に驚愕した人も多いのではないか。
組織の実態により,いろいろなケースがあり,どこまでを技術本来の役割と線引きするかによっても分かれるが,経験上から一般的にみて,研究開発を主体とした研究部門でも,70%以上の時間を掛けているところは少ない。まして,事業場の中の技術部門では,50%にも満たないところが多いのである。
特に,昨今はメールなどの氾濫により,必要としない情報までもが周りにとんできて,それを処理するにも時間が掛かるのが実態である。本当に重要なメールを探さなければならない,と云った人が出てきているケースさえある。だから,朝の貴重な時間は考える時間に充て,メールを見ることを禁止している会社まで出てきている。また,会議の多さ,他の人,部署との調整,報告などにも意外と時間をとられているのである。
実際に仕事内容を調査したことがあるが,実際の仕事の内容そのものと仕事の目的をマトリクスにして,調査すると,仕事の分析がより鮮明にできて,対応策を考えるにも便利だったことがある。つまり,例えば,仕事内容が資料作成でも,その目的が,顧客への回答,実験結果のまとめ,会議用プレゼンの作成,出張報告書の作成などと分かれるし,出張でも,マーケット調査を含む拡売のためと,品質クレーム対応では目的が違う。研究開発でも,他から委託されたものもあれば,自主開発のテーマもある。事業場に直結する短期的なテーマもあれば,数年先に長期テーマを扱っている場合もある。ただ,このように必ずしもマトリクスにする必要はないが,何のために,どういうアクションに結びつけるためにデータを調べるかを明確にした上で調査することが大切である。
詳細に調べるに超したことはないが,調べることが目的ではないことを肝に銘じて,最も効率的な方法で,かつ調査期間も長ければよいと云うものでもない。かといって,一週間だけで目的すべてに該当するかも疑問である。調査作業は,被調査者である技術者にも負担を掛けることなので,熟慮した上で実施されるべきである。意外とあなたの職場の思わぬ実態,感覚的に感じているもの以外のものが見えてくることがある。
この調査結果は,直接,新製品が出ない要因の一つかもしれない。或いは,間接的に時間の使い方で,技術者のモチベーションが下がっており,仕事に対する意欲が削がれていることかもしれない。限られたリソース,時間の中で,如何にすれば,優れた技術活動ができるか,ヒントになるものが見つかるかもしれない。
あなたの会社,職場では,新製品開発が順調に進んでいますか?
技術活動(新製品開発など)が遅れている要因を調べ,対策したことがありますか?
開発遅れの損失コストを具体的に数値化(見える化)していますか?
[Reported by H.Nishimura 2007.02.15]
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