■組織責任者の育成について(No.002)
最初に課題提起した問題について,先ずは数回,もう少し具体的に身近な内容で考えてみることにする。
もともと会社組織は,社長を頂点とするピラミッド型になっており,一昔前,20世紀では,年功序列的になっていた。つまり,ある程度の年齢になると,主任や係長になる。ここで初めて部下ができる。つまり,仕事上のリーダ的な位置づけになり,一人での仕事から,グループ(複数)での仕事をすることになる。それを何年か経験すると,次に主事や課長代理に,そして,課長になる。会社によって違いがあるが,通常,会社生活の経験が10年以上経っている。もちろん,誰でも課長になれるわけではなく,いわゆる管理職として適性があるかどうか,何らかの選抜が行われていた。さらに,大きな組織を預かる部長,工場長などと一国一城の主とまではいかないまでも,それなりの責任と権限を委ねられていた。
ところが,昨今はヒエラルキー(階級組織)の組織構造では,世の中のスピードに対応できなくなり,素早い決断ができるフラットな組織を作るようになってきている。このフラットな組織とは,従来の部,課組織とは似通っているが,仕事上最も適任者がリーダとなって組織を運営していくところにあり,年功によらないところが,組織の膠着した状態にならないことや,階層も従来より薄くなり,決断が早くできるメリットが挙げられていた。しかし,過渡期の実態は従来の部,課組織の名前を横文字にしたようなものだった。
この結果,大企業では人材が豊富なため,若い優秀な人がリーダに抜擢されるケースも出てきている。しかし,中小企業ではなかなかそれだけの人材がいることは少なく,年功序列が続いているところも多い。
フラットな組織が始まって数年が経つが,一見現代風の,時代に合った組織形態であるが,必ずしもメリットばかりではない。ここでは,フラットな組織の単なる批判だけではなく,そのメリットを最大限活かす意味でも,直面している大きな課題提起をしてみたい。
1.組織責任者が育っていない
フラットな組織を経験して数年になるが,現場経験の実態から見ると,以前のヒエラルキー(階級組織)よりも,組織責任者が育っていないのではないか,と思われる。その理由の一つには,責任者として選ばれるのは,仕事上リーダに相応しい人が選ばれるので,仕事を進めていく業務遂行上の問題はあっても,十分できる能力を持っている場合が多い。しかし,組織責任者となると単に組織のミッション遂行だけではなく,いわゆる管理職的なマネジメントの部分も仕事の一部として要求されることが多い。単に,決められたプロジェクトリーダと云った場合ならば問題は少ないが,部下指導,育成などプロジェクト以外の仕事が要求される。もちろん,初めてのことではなく,前のポストの時代から多少は経験を積んでいるが,必ずしもそうではない。
以前も同じではないか,と云う意見もあるが,その違いは,組織責任者へ抜擢,或いはいきなりされるケースが以前にも増してきているのである。つまり,ヒエラルキーの組織では,上に上がる順番がおおよそ決まっており,上の職位に付いたとき,何をしなければいけないかが,本人も周りの人も判っており,事前から訓練される期間があり,自然な流れができている。
ところが昨今は,年功で上から順番ではなくなってきている。つまり,本人もそうであるが,周りも十分な認識がないうちに,リーダにされてしまう。もちろん,資格を取るための社内試験・面接などはパスしなければならないが,若手を抜擢するなど先にやらせてみる場合も増えてきている。職位に就かせながら育成するのである。ここで十分指導・育成が行われれば問題はないのであるが,その職位に就いたのだから,自分で考え,努力しろ,と放ったらかしにしてしまっている。或いは,新任研修などを受講させることを義務付けしているところもある。実際には,数日間研修しただけで人が育つことは殆どない。しかし,会社の仕組みとしては受講したか否かだけがフォローされる。結果的に組織責任者として未熟な人がいることになる。
2.組織変更が頻繁に行われる
以前とは環境の変化が激しく,仕事のスピードが速まっていることから,組織変更が頻繁に行われるようになってきている。昨今のフラットな組織の場合,ヒエラルキーな組織よりも組織変更が容易に行われる。変化に俊敏に対応するメリットはあり,業務上の効率面からは一見よさそうに見えるが,人をじっくり育てることはなかなか難しくなる。組織で仕事をしているから問題ないとの見方もできるが,現場の実態はやはり人が仕事をしている。最適な組織にしたつもりでも,長い目で見ると,単に同じパイの中でシャッフルしているだけである場合も多い。こうした状態では,核心的な課題が抽出もされず,もちろん解決もしないし,事業も拡大しない。つまり,人が育たないと事業も育たないのである。
組織が頻繁に変わるということは,何か不都合があるからである。不都合とは,業績が上がらない,技術で云えば新製品がなかなか出てこないことである。組織責任者はそういった環境下では,成績を上げることに注力する。長期的な成果よりも短期的な成果を求めやすくなるのは仕方がない。大企業では,事業部長ですら,当面の事業が収益が出ているかどうかでその去就が決まる。つまり,事業に携わる組織,その中に居る人すべてが,短期的な成果を上げることが最大課題になっているのである。これでは,大型の新製品など生まれる環境ではなくなってしまう。つまり,事業拡大は自らが首を絞めてしまっていることに他ならない。
3.経営者(事業観を持ったリーダ)が育つ環境か?
フラットな組織の場合,仕事を中心にした組織と云うが,その視点は業務効率の向上が問われる。つまり,内部の業務効率が最も良いと想定される組織が作られる。これは仕事上重要なことである。だが,事業は内部効率だけでは成り立たない。外部環境が一方では,事業拡大の大きな要因である。
昨今は机の上で新聞を読んでいるような組織責任者はいない。その代わりに,インターネットを利用している人も居るかもしれないが,そうした人も実際には少ない。昔のような,一国一城の主が必ずしも今の時代には合っていないが,気持ちはその程度の太っ腹,余裕が欲しいものである。つまり,組織責任者の上になればなるほど,課長よりも部長・工場長,さらには会社幹部は,内よりも外に眼を向けた事業観を持った率先垂範した行動が求められる。
フラットな組織は,組織責任者一人にすべてが集中する傾向が出る。このことは,従来の組織では一段下の職位で決断されていたこともで,組織責任者に上がってくることになる。そうなると,内なる仕事のウェートがどうしても高まってしまう。内部の業務効率に目が向いてしまう。このことは,ヒエラルキーの組織よりも内向きなこじんまりした組織になる。これが定着してしまうと,事業観を持った人が,会社社長や幹部だけで,現場に事業観を持ったリーダが居ない状態が作られてしまう。
この状況を避けるため,現場のオペレーションをする人と,事業戦略など経営幹部を目指す人と指導育成を分ける試みも行われている。現場の組織責任者と会社幹部とは,物の見方,考え方が違い,組織責任者から会社幹部になるキャリアアップでは事業観への切り替えが難しいと云うものである。これまでの経験からすると,現場を知らない(現場の組織責任者を経験しない)会社幹部が事業の真髄を理解して,会社経営できるかについては疑問が残る。やはり事業は,外部環境と内部環境のバランスが重要である。現場の組織責任者の中にも,内部の業務効率を考えながら,外部環境の変化に長けている人が居る。そうした人が,フラットな組織でつぶされてしまわないようにする組織,仕組みを検討する方が事業拡大が成功する確率は高いはずである。
皆さんの組織はフラット型ですか?ヒエラルキー型ですか?
組織責任者が順調に育っていますか?
事業観を持ったリーダに率いられていますか?
[Reported by H.Nishimura 2007.02.08]
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