■ホームページ開設にあたって
入社以来,30数年勤めた会社を昨日,1月末で定年退職した。その間,技術者として新製品開発から,開発リーダとしてプロジェクト推進,新製品の事業化,マネジャーとして技術行政,管理,さらには経営者の企画スタッフと して,経営の参謀を務めてきた。
世に云う電機系大企業の中で大いに揉まれ,いろいろな経験をさせてもらって,団塊の世代のはしりとして頑張ってきた。今日からは,こうした大きな企業の傘から解放された一匹狼である。
我々の世代は,入社以来,高度成長期を経験した仕事が生き甲斐,仕事しか知らない働き蜂的な人間が多いが私自身はそうは思っていない。他人から見ると当に仕事しかないように移っているようであるが,趣味だけでも5本指では納まらない。かといって,これからの人生を趣味に走ってしまおうとも思っていない。特に,会社生活の最後の5年間は,これまでには経験しなかった赤字経営で,会社が潰れるのではないかとさえ思われる危機を経験し,多くの同僚が早期退職していった。「人を大切にする」ことを標榜していた一流と言われる大企業の中でもこうしたリストラが行われた。このとき感じたのは,確かに家庭を顧みることもなく,がむしゃらに仕事だけをしてきた我々の世代であるが,次の若い世代に技術をはじめとした仕事が十分伝承されているかについては,甚だ寒々しいものを感じないではいられなかった。そこで,仕事のやり方,仕組みはそれなりに会社の規程やルールで引き継がれていくが,その背景にあった考え方,思想は殆どが我々年配者の暗黙知のまま葬り去られようとしていた。会社生活最後の5年間は,具体的な製品開発などの仕事や技術者一人ひとりをフォローする管理職の仕事から外れ,専門職として,所謂我々の世代が暗黙知として持っている「経験知」を少しでも次の世代に伝承しようと努めてきた。しかし,十分伝承できたかと問われるとYESとは云えない。私が言うのも変だが,世の中で言う大企業の優秀な技術者への伝承ですら,このような不完全な状態である。まして,日本の企業全体で見れば,もっとできていないのではないだろうかと勝手に推測している。
そこで,今日からは,私を育ててくれた大企業の仲間だけでなく,広く日本中の企業に勤める技術者に向けて,専門が製造業の技術系なのでそれに関連する技術者が中心になるが,団塊の世代からのメッセージをこのホームページを通じて届けようと企てた次第である。
「技術経営の交差点」としたのは,これからお届けする内容が,純粋な技術ではなく,経営の観点から見た技術活動の内容が多く,且つ,誰でも行き交うことができると言うところから,名付けたものである。著名な大学教授でもなければ,企業経営者でもない一介のサラリーマンができることは,ごく僅かなことでしかないかも知れない。しかし,経験知を伝えることは,立派だから上手く伝えられるものではなく,教え手と受け手の呼吸がピッタリ合えば,上手く伝わるはずである。ごく身近な泥臭く,生々しい内容になるかもしれないが,実践に役立つ「経験知」を次世代の若者に伝えたいと考えている。上手く伝承することができる自信は大いにある。
たまたま,このホームページに辿り着いた人でも,興味ある方は是非お付き合いいただきたい。決して皆さんの貴重な時間をムダにはさせないつもりである。
最初に考えた技術経営の課題は,以下のようなものである。
◆組織責任者が育っていない組織活動はその組織のリーダに大きく左右される。しかも,昨今ではスピードが求められ,且つ判断を誤ると危機に陥るような状況になる可能性さえある。ところが,現実は人が育てられて責任者を任されるのではなく,適任者がなかなか見つからなくて,手近に居る人が責任者(最近は課長でなく,チームリーダなどと呼ばれる)になるケースさえ見受けられる。上司はその人の適性を見計らって任命はしているのだろうが,実態は当の本人は責任者にされて苦労しているリーダをよく見かける。
◆新製品開発など技術活動が思い通りに進まない新製品開発が順調に進んでいる例はめったにお目に掛からない。殆どが,当初立てた計画から遅れ,遅れで進んでいるのが実情である。特に開発スピードが要求されるため,計画段階でかなり無理をした計画を立てているケースも多い。それよりも一番多いのは,新製品特有の不確定要素が十分読み切れなくて,新たな開発要素のために開発が遅れると云うものである。開発リスクをどのように読み,設定するかの技量がマネジャーに求められている。
一方,仕事内容を分析してみると,技術本来の役割(ミッション)から外れた仕事内容で時間を採られているケースが目につく。どこでもそうであるが,技術者は後にトスする人がいないため,最後まで自分でやりきらねばならないことが多い。特に利益が出ていないと,技術者も少ない上に,何でも全て技術がやらねばならない,と云った悪循環が繰り返されているケースが多い。
◆知識の伝達が上手く行っていない組織内での情報の伝達が必ずしも上手くいっていない。それがもう一段上の知識となると,更に伝達されないことが多い。「暗黙知」を「形式知」に変換して,伝達すると言われているが,実態はそうした理想形にはなっていない。優秀なスキルを持った人が一人抜けるだけでそこの組織の技術力が弱くなってしまうことは日常茶飯事である。技術が組織ではなく,その人個人に付いているだけである。それでも大企業では,過去の蓄積として,組織のノウハウを規程,基準,要領,技術ノウハウ集などと云った形で受け継がれている。ただし,活用はされていても,その思想まで十分伝わっているかどうかは定かでない。
◆改革(組織改革,意識改革)が叫ばれているが,上手く進まない改革は昨今の流行である。2000年以降,大企業でもうかうかしていると倒産の憂き目に会うことは珍しくなくなってしまった。旧態依然のままで仕事をしていると,ある日突然,全く違った斬新的なやり方が出来上がっている。特に,IT関連の技術の進化は激しい。システムの大掛かりな変更も余儀なくされてしまう。それに乗り遅れてしまうと,企業存亡の危機に陥ってしまうことさえある。『この世に生き残る生物は,最も強いものではなく,最も知性の高いものでもなく,最も変化に対応できるものである』と云うのはダーウィンの言葉である。まさしく変化に対応する俊敏性が求められ,改革が叫ばれているのである。これだけ叫ばれるのには,なかなか上手く行かない実情があるからである。
◆口先だけや弁の達人はいるが,率先垂範して実行する人がいない「経営は実行」(ラリー・ポシディ,ラム・チャラン著 2003 日本経済新聞社)や「実行力不全」(ジェフリー・フェファー,ロバート・サットン著 2005 ランダムハウス講談社)など,実行が伴わない経営はあり得ないことを述べた書物は多い。実際に,周りを見ると口先だけで実行を伴わない人やプレゼンなど報告することは上手だが中身が伴っていない人はよく目にする。なぜ,そうした人が増えるのか?これは人事の評価制度などいろいろな問題を含んでいる。しかし,本当に事業を大きくしたり,経営を任された真の経営者は,実行を伴っている。
以上のような話題を順次取り上げて行こうと考えている。
[Reported by H.Nishimura 2007.02.01]
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